当ブログは移転しました。

きつねの音楽話

老人性古本症候群を患った若者の徘徊ブログ

【人類最高の芸術作品】ベートーヴェンの第九交響曲から「喜びの歌」をドイツ語で味わう

 年末といえばベートーヴェン交響曲第九番、いわゆる第九(ダイク)が演奏されますが、その中心をなすのが第四楽章の合唱の部分です。

普通交響曲は器楽のみの場合が多いですが、ベートーヴェンはこの最後の交響曲にシラーの頌歌「歓喜に寄す」による終結合唱を付け足しました。

※頌歌(ショウカ):ほめうた。頌はほめたたえること。

第九交響曲はこの「歓喜に寄す」によって、音楽のみのものと比べて、はっきりとした”性格”、あるいは”具体性”を持っています。

歌詞をもっているものはなんでもそうでしょうが、歌詞の意味を理解して初めてわかってくることがあります。

シラーの詩を観察して、人類最高の芸術作品といわれるこの第九をよりよく理解しようというのがこの記事の目的です。

 

 

ベートーヴェン作曲交響曲第九番から「喜びの歌」を聴く

 「よろこびの歌」は学校でもよく歌われるようですから、歌ったことのある方も多いと思われますが、学校などで歌うのは主要テーマの部分だけで、歌の入る部分は実際は長大なものです。

 歌詞の詩について

この歌詞はシラー(Friedrich von Schiller 1759-1805)の「歓喜に寄す(An die Freude 1785)」によるものですが、原詩はかなり形が違います。

頭の部分にベートーヴェンが自作した歌詞がついているのは有名な話ですが、実はそれだけではなくて、

  1. 順が変っている
  2. 詩の半分以上が省略されている

という大きな違いがあります。

ここで原詩をみることはしませんが、原詩は八行(の独唱とでもいうべき箇所)のあと四行の合唱(Chor.)という組み合わせが八回繰り返されます。しかし第九ではあとでみればわかるように独唱三、合唱三しか使われていません。

それに原詩とは順が違い、独唱が三つ続けて登場したあとに合唱が三つ続けて登場します。

 ※ここでいう独唱と合唱は詩の中での話で、音楽の独唱と合唱とは関係がありません。

※特に後半、先にでた歌詞が繰り返される部分があります。

 

というわけで、第九の歌詞をよく読んでも本来の「歓喜に寄す」を読むことにはならないのですが、まあ原詩を読むのはひとまずあとにまわして、第九の歌詞を吟味しましょう。 

 喜びの歌を聴く

歌の部分は第四楽章の後半からです。

そこから聴いてましょう。

 

指揮 バーンスタイン

オーケストラ ウィーン・フィル

合唱 ウィーン国立歌劇場合唱団

ソプラノ ジョーンズ  アルト シュヴァルツ

テノール コロ  バス モル


Ode à la joie 9è symphonie de Beethoven donnée par Bernstein

 

歌詞

ODE ≫AN DIE FREUDE≪ より
オーデ アン ディー フロイデ

 

O Freunde, nicht diese Töne!
オー フロインデ ニヒト ディーゼ テーネ

Sondern laßt uns angenehmere anstimmen
ゾンデルン ラスト ウンス アンゲネーメレ アンシュティンメン

und freudenvollere!
ウント フロイデンフォッレレ

 

Freude, schöner Götterfunken,
フロイデ シェーネル ゲッテルフンケン

Tochter aus Elysium,
トホテル アオス エリューズィウム

Wir betreten feuertrunken,
ヴィール ベトレーテン フォイエルトゥルンケン

Himmlische, dein Heiligtum!
ヒムリッシェ ダイン ハイリヒトゥーム

Deine Zauber binden wieder,
ダイネ ツァオベル ビンデン ヴィーデル

Was die Mode streng geteilt;
ヴァス ディー モーデ シュトレング ゲタイルト

Alle Menschen werden Brüder,
アッレ メンシェン ヴェールデン ブリューデル

Wo dein sanfter Flügel weilt.
ヴォー ダイン ザンフテル フリューゲル ヴァイルト

 

Wem der große Wurf gelungen,
ヴェーム デル グローセ ヴルフ ゲルンゲン

Eines Freundes Freund zu sein,
アイネス フロインデス フロイント ツー ザイン

Wer ein holdes Weib errungen,
ヴェール アイン ホルデス ヴァイプ エルルンゲン

Mische seinen Jubel ein!
ミッシェ ザイネン ユーベル アイン

Ja ― wer auch nur eine Seele
ヤー  ヴェール アオホ ヌール アイネ ゼーレ

S e i n nennt auf dem Erdenrund!
ザイン ネント アオフ デム エールデンルント

Und wer's nie gekonnt, der stehle
ウント ヴェールス ニー ゲコント デル シュテーレ

Weinend sich aus diesem Bund.
ヴァイネント ズィッヒ アオス ディーゼム ブント

 

Freude trinken alle Wesen
フロイデ トリンケン アッレ ヴェーゼン

An den Brüsten der Natur;
アン デン ブリューステン デル ナトゥール

Alle Guten, alle Bösen
アッレ グーテン アッレ ベーゼン

Folgen ihrer Rosenspur.
フォルゲン イーレル ローゼンシュプール

Küsse gab sie uns und Reben,
キュッセ ガープ ズィー ウンス ウント レーベン

Einen Freund, geprüft im Tod;
アイネン フロイント ゲプリューフト イム トート

Wollust ward dem Wurm gegeben,
ヴォルスト ヴァルト デム ヴルム ゲゲーベン

und der Cherub steht vor Gott.
ウント デル ヒェールプ シュテートヴォール ゴット

 

Froh, wie seine Sonnen fliegen
フロー ヴィー ザイネ ゾンネン フリーゲン

Durch des Himmels prächt'gen Plan,
ドゥルヒ デス ヒンメルス プレヒトゲン プラーン

Laufet, Brüder, eure Bahn,
ラオフェット ブリューデル オイレ バーン

Freudig, wie ein Held zum Siegen.
フロイディヒ ヴィー アイン ヘルト ツーム ズィーゲン

 

Seid umschlungen, Millionen!
ザイト ウムシュルンゲン ミリオーネン

Diesen Kuß der ganzen Welt!
ディーゼン クス デル ガンツェン ヴェルト

Brüder ー überm Sternenzelt
ブリューデル  ユーベルム シュテルネンツェルト

Muß ein lieber Vater wohnen.
ムス アイン リーベル ファーテル ヴォーネン

 

Ihr stürzt nieder, Millionen?
イール シュテュルツト ニーデル ミリオーネン

Ahnest du den Schöpfer, Welt?
アーネスト ドゥー デン ショップフェル ヴェルト

Such' ihn über'm Sternenzelt!
ズーホ イーン ユーベルム シュテルネンツェルト

Über Sternen muß er wohnen.
ユーベル シュテルネン ムス エル ヴォーネン

 

※頭の斜体の部分はベートーヴェンによるもの

詩の特徴

詩ですから脚韻を踏んでいるのは当たり前のことですが、シラーの詩はその韻の踏み方が丁寧で、音がきれいにそろっています。

説明するのがむずかしいですが、共通部分の大きい語が句末におかれているわけです。声に出して読めばわかると思います。

 

この詩は思想的な抒情詩ともいうべきもので、たとえば物語詩などのように意味の流れがあって、それにのって歌われる息の長いものとは違います。

つまり強固な筋をもつ一連のものというよりは、印象の強い短い言葉を重ねて意味をつくっていくものです。

詩の解説

以下は詩を適当なところで分けて、意味を解説します。

詩は七つの部分からできていますから、1から7の番号をつけて示します。

1, O Freunde, ~freudenvollere!

この部分はそれまで演奏してきた、あるいはこれまであったすべての音楽に関してととってもいいかもしれませんが、それに対して(説明的に)いうわけです。

 

O Freunde, おお、友よ
・Freunde 友

nicht diese Töne! この音ではない
・nicht 英not
・Töne Ton 音、音響; 音色、音調 の複数形

 

Sondern laßt uns angenehmere anstimmen
そうではなくより快きものを歌おう

・Sondern 英but 上のnichtと呼応して、~ではなく〇〇だ、の形
・laßt uns 英let us
・angenehmere angenehm 快適な; 好ましい の比較級 後ろにTöne省略
・anstimmen 歌を歌いはじめる、あるいは楽器をひくという動詞。Stimmeは声

und freudenvollere! もっと喜び多きものを

・und 英and
・freude 喜び、歓喜 voll 多い
・freudenvollere はfreundenvoll 喜び多き の比較級 後ろにTöne省略

2-1, Freude, ~Heiligtum!

Freude, 喜び、歓喜

schöner Götterfunken, 美しき神々の火花(の)
・schön 美しい
・Götter Gott 神 の複数形 Funken Funke 火花、閃光の複数形

Tochter aus Elysium, エリューズィウムの娘
・Tochter 娘
・aus 英from ~から(来た)
・Elysium ギリシャ神話で、地の西端あるという楽園。英雄が死後辿り着く所。

 

これらの部分はひとまとめでFreudeに呼びかけています。

schöner Götterfunkenは形のうえでは第二格(所有格)で、みたところ何か(語)にかかっているようにみえます。ただ、ここでは別に強くかかっていくと考えなくてもいいかもしれません。とにかく呼びかけているのです。

Tochter aus ElysiumもつまりはFreudeのことです。

結局どうとらえるかというと、まずFreudeによびかけて、そのFreudeがどういうものか付け足しているので、歓び、美しき神々の火花の、エリューズィウムの娘よと考えて、そのまま感覚的に受け取ればいいと思います。

 

Wir betreten feuertrunken, 我々は火に酔いつ入る
・wir 英we
・betreten (どこかに)足を踏み入れる
・feuer 火 trunken trinken 飲む の過去分詞 (ge)trunken 酔える
ここではfeuertrunkenが副詞の働きをしていて、火に酔いながら、という意味

Himmlische, himmlisch 天界の、神の 崇高な Himmelが天空
この形は後に何か省略しているようにみえます。FreudeあるいはTochterでしょうが、まあ単に後ろにつながると考えてもいいでしょう。

dein Heiligtum! 汝の聖殿に
・Heiligtum 神聖な場所 heiligは神聖な 英語のholy

2-2, Deine Zauber ~weilt.

Deine Zauber binden wieder, 汝の魔力は再び結ぶ
・Zauber 魔法、魔力
・binden 結ぶ
・wieder 再び

Was die Mode streng geteilt; 時流が強く分かちたるもの(を)
・was ~ところのもの、というので何か”もの”を表す
・Mode フランス語 流行、はやり 日本語でもモードという
・streng 烈しく、強烈な ここでは副詞
・geteilt teilen 分ける の過去分詞(詳しくいえばこの後にhatが省略されている)

;があって、その結果がどうなるかが以下に示されます。

 

Alle Menschen werden Brüder, すべての人は同胞になる
・all(e) 英all
・Menschen Mensch 人 の複数形
・werden 成る 英become
・Brüder 兄弟、朋輩

Wo dein sanfter Flügel weilt. 汝のやわらかき翼のやすらうところ
・wo 英語のwhereで、場所を表すが時を表すこともある。ここではweilenとどまる、やすらうがあるので、場所とともに時間をも意味しているとおもわれます。つまり時空を表します。
・sanft(er) やわらかい
・Flügel 翼

この部分(Wo以下)は上の行にかかります。

3-1, Wem ~ein!

Wem der große Wurf gelungen, 大きな賭けに勝ったもの
・wem は人を表す。形は3格(与格)
・gelungen gelingen うまくいく、成功する の過去分詞(後にhat省略)
gelingenは3格をとるので、wemという形になっています。
・der große Wurf この文の主語 Wurfは(賽を)投げること groß(e) 大きい

つまりこの文はder große WurfがWemにgelungen (hat)という構造。日本語にすると上の訳のような意味になります。その賭けの内容は下に示される。

Eines Freundes Freund zu sein, 一人の友の友となる(という)
・Eines Freundes 一人の友の 次のFreundにかかる
・sein 英be
zuが動詞の前におかれて、この句がまとまり、Wurfの内容を表します。

そして、Wemは下のWerに吸収されます。つまり同一の人を表します。

 

Wer ein holdes Weib errungen, やさしき妻を得しもの
・wer は人を表す。1格(主格)
・hold(es) やさしい、淑やかな Weib 妻
・errungen erringen (努力して)得る、獲得する の過去分詞(hat省略)

Mische seinen Jubel ein! その歓呼を分かち合え
・Mische ein einmischenでかき混ぜること ここでは命令の形 参加せよくらいの意味
・seinen 彼の werのこと Jubel 歓呼、欣喜(キンキ)

確かではありませんが、どうもこのJubelという単語はジュピターと関わりのある言葉のようです。ジュピター交響曲を思い浮かべるとよいかもしれません。

3-2, Ja ~Bund.

Ja ― wer auch nur eine Seele そう、ただ一つの魂でも~するもの
・ja 英yes 然り、さよう ここでは上の部分を受けて肯定し強めている
・auch nur 英also only ただ~も
・Seele 魂

S e i n nennt auf dem Erdenrund! この地球上で”我がもの”となづく
・sein 彼のもの 日本語だと我がものとしたほうがわかりやすい。
S e i n と隔字体(sperrschrift)になっているのは強調でしょう。

ここは二行で一文です。ここは”確認”とみられましょうか、そうだ~だ!といっているようにみえます。

 

Und wer's nie gekonnt, der stehle それを得ざりしもの、そのものは~忍び行け
・wer's wer es esは上の文意を受ける。
・nie gekonnt (hat) 完了形 (これまで)決して出来なかった
・der werの句を受けて、彼は
・stehle(n) 盗む ここでは sich aus~ stehlen で、~から忍び出る の意 その命令

Weinend sich aus diesem Bund. 嘆きつつこの同盟から
・weinend 泣きながら、嘆きながら weinen 泣く の現在分詞 英語だとweepingに相当
・Bund 同盟、聯合

 そして、これまでそれができなかったものは、そのものは嘆きつつこの同盟をこっそりでていけ という意味になります。

4-1, Freunde trinken ~Rosenspur.

Freude trinken alle Wesen 歓びをすべてのものは飲む
・Wesen seinと関わりのある言葉で、存在、あるいは実存、本体を表します。(難しい) ここでは alle Wesen ですべてのもの 意味のつながりを考えると生きとし生けるものといってもよいかもしれません。

An den Brüsten der Natur; 自然の乳房から
・Brüsten Brust 胸、乳房 の複数形
・Natur 英nature

二行で一文です。

 

Alle Guten, alle Bösen すべての善人、すべての悪人
・Guten, Bösen は形容詞の名詞化用法 gut 善い böse 悪い

Folgen ihrer Rosenspur. かのばら色の足跡をたどる
・folgen 随行する、後をつける
・Rosenspur Rose バラ Spur 跡、足跡

かのというのは自然をさしていると思われます。

4-2, Küsse ~Gott

Küsse gab sie uns und Reben, 接吻を彼は我々にそして葡萄を授けた
・Küsse Kuß 接吻 の複数形 英 kiss
・gab geben 与える の過去形
・sie 英she ここでは上のNaturをさす
・uns 英us
・Reben ぶどう

Einen Freund, geprüft im Tod; 心より信頼しうる、一人の友を
・geprüft prüfen 試験する、(神が)試煉する の過去分詞
geprüft im Tod 死の中で試煉されし というのですが、どういう意味に転ぶのかちょっと定かではありません。この辺はキリスト者に死の試煉を受けるとどういう友になるのかきいてみたいですね。ただ試煉はためされるもので、それをくぐりぬけたものはその力あるいは性質が(神に)認められるわけですから、信頼しうる、とか心を許せるとかそういう意味になると思われます。日本語でも”死ぬほど”などというと、程度の甚だしいことを表しますから、言葉としてそういう一面はもっていそうです。

この行は上の文とつながっています。

 

Wollust ward dem Wurm gegeben, 歓楽はうじ蟲に与えられ
・Wollust よろこびはよろこびでも、肉慾的意味合いが含まれえます。
・ward 受身の助動詞 werden の過去(詩的用法)
・Wurm むし、毛虫、うじ
・gegeben gebenの過去分詞

und der Cherub steht vor Gott. 天使は神の前に立つ
・Cherub 智天使熾天使(Seraph)に次ぐ第二階級の天使)
・steht stehen 立つ 英stand

5, Froh ~Siegen.

Froh, wie seine Sonnen fliegen 悦ばしく、彼の太陽が翔るごとく
・wie 英as のごとく
・Sonnen Sonne 太陽 の複数形
・fliegen 飛ぶ

seine彼のが誰のなのか実はちょっと問題なのですが、ここでは素直にGottのと考えておけばいいと思います。

Durch des Himmels prächt'gen Plan, 天の壮麗な原を通って
・durch ~を通って
・prächt'gen prächtig(en) 華麗な、壮麗な
・Plan 平地、平野

日本でいう天の原ですね

 

Laufet, Brüder, eure Bahn, 駈けよ、同胞よ、汝らの路を
・laufet laufen 走る、かける の複数に対する命令
・Bahn 路 ここでは(天体の)軌道

Freudig, wie ein Held zum Siegen. 喜ばしく、英雄の勝利に歩むごとく
・Held 英雄 英hero
・Siegen 勝利 この後にgehenのような語が省略されています。

6, Seid ~Vater wohnen.

Seid umschlungen, Millionen! いだき合え、もろびとよ
・umschlungen umschlingen の過去分詞 巻きつけるの意
Seid umschlungen で、抱擁されてあれ、抱き合えの意
・Millionen 百万人

Diesen Kuß der ganzen Welt! この接吻を全世界に
・ganz 全き、完全な
・Weld 英world
ここは一見、全世界のくちづけを、にみえるのですが、意味を考えるとder ganzen Weltは所有格ではなくて与格でしょう。

Brüder ー  überm Sternenzelt 同胞よー 天蓋の上に
・überm über dem überは英語のover
・Sternen Stern 星 の複数形 Zelt 天幕、テント

Muß ein lieber Vater wohnen. 必ずや愛しき父はいる
・Muß müssen の過去形 müssenは英語のmust ~に違いない
・wohnen 住む

7, ihr ~wohnen.

Ihr stürzt nieder, Millionen? 汝らひれ伏すか、もろびとよ
・stürzt nieder niederstürzt でひれ伏すの意

Ahnest du den Schöpfer, Welt? 汝創造者を感ずるか、世界よ
・ahnen 感ずる、予感する
・Schöpfer 創造者(つまり神のこと) schaffen 創造する、から

Such' ihn über'm Sternenzelt! 求めよかれを天蓋の上に
・Such' Suche suchen 探す、もとめる ここでは命令

Über Sternen muß er wohnen. 星々の上に必ず彼はいる

感想やらなにやら

シラーというのは信仰深い人だったようで、この詩もまたキリスト教的世界観が前面に押し出されています。

しかし、シラーの詩はかたいお説教とは違います。言葉のひとつひとつが何か普段より強く、また輝いている感じがします。

 

この詩の中心はもちろん何よりFreudeを褒め称えるところにありますが、Freudeの力によって、引き離されてしまったものが再び結びつけられ、人は兄弟になる、ということが全体のテーマでしょう。

そこで下にも書きますが、ベルリンの壁を壊したときに、統合を祝って第九が演奏されたわけです。ヨーロッパではこの曲が統合の象徴としてあるようです。

 

ただ、詩によると、この同盟は全人類のものではない、Alle Menschenはすべての人だが、すべての人ではない、というのが注目すべきところです。

だれでも同盟に加われるわけではないわけです。 

ドイツの詩に興味がある人のために

 ドイツの詩がどんなものか興味がある人はこの本を読んでみるといいかもしれません。

 

ドイツ名詩選 (岩波文庫)(Amazon)

 

岩波文庫の名詩選シリーズは詩を原語と日本語で対訳にしてあるので、どんなものかのぞくにはちょうどいいです。

ただ訳のほうはあくまで訳なので、詩として楽しみたい方はシラー詩集などのほうがよいかもしれません。

英詩や仏詩など他の国のものもあります。

第九の名盤

 第九の名盤はたくさんありますが、その中から代表的なものを紹介します。

カラヤン指揮

カラヤン/ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」(Amazon)

オーケストラ ベルリン・フィル

合唱 ウィーン楽友協会合唱団

ソプラノ ペリー  メゾソプラノ バルツァ

テノール コール  バリトン ヴァン・ダム

 

Symphony No. 9 in D Minor, Op. 125

Symphony No. 9 in D Minor, Op. 125 "Choral": IVb. "O Freunde nicht diese Töne"

 ※iTunesは▶で試聴できます。

 

カラヤンの第九の録音で有名なものは

 47年 ウィーン・フィル

 53年 フィルハーモニア

 62年 ベルリン・フィル

 77年 ベルリン・フィル

 83年 ベルリン・フィル

の五種で、特にベルリン・フィルとの三度の録音はどれも名演とされています。

このCDは一番下83年ベルリン・フィルとの録音

 

どの録音がよいかということは意見のわかれるところでしょうが、若いころは溌溂と力強く、年をとると力が抜けてすっきりとするというような、人間一般のことが普通録音にも現れますから、その辺を基準にして聴くものを選ぶとよいかもしれません。

また(ベートーヴェンのほかの交響曲でも)迷ったらカラヤンの77年盤ベートーヴェン:交響曲全集 を聴くとよいでしょう。この録音が演奏としては最も充実しているといわれます。

 

77年盤

交響曲 第9番《合唱》~第4楽章

交響曲 第9番《合唱》~第4楽章

 

バーンスタイン指揮

バーンスタイン/ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」(Amazon)

オーケストラ ウィーン・フィル

合唱 ウィーン国立歌劇場合唱団

ソプラノ ジョーンズ  アルト シュヴァルツ

テノール コロ  バス モル

 

79年の国立歌劇場でのライブ録音(上の動画)

バーンスタインの第九といえば他にベルリンの壁開放を祝って1989年に行われた演奏のライブ録音が有名ですが、その演奏はバイエルン放送交響楽団と合唱団を中心に東西ドイツ英米仏ソのオーケストラ、東西ドイツの合唱団、東西ドイツ英米ソリストという混合編成のため、演奏自体はこの録音のほうが勝っているというのが世評です。

 

1989年の録音 Freude歓喜をFreiheit自由に置換えて歌っている。

ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 作品125《合唱》~第4楽章:歓喜の歌

ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 作品125《合唱》~第4楽章:歓喜の歌

 

 

フルトヴェングラー指揮

フルトヴェングラー/ベートーヴェン:交響曲第9番《合唱つき》[バイロイトの第九](Amazon)  

オーケストラ バイロイト祝祭オーケストラ

合唱 バイロイト祝祭合唱団

ソプラノ シュヴァルツコップ  アルト ヘンゲン

テノール ホップ  バス エーデルマン 

 

ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 「合唱付き」 Op. 125 - IV. Allegro ma non tanto -

ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 「合唱付き」 Op. 125 - IV. Allegro ma non tanto -

 

フルトヴェングラーの第九はこの「バイロイトの第九」というのが有名ですが、古い録音のため音がよいとはいえません。

ただ、音質の良し悪しではなくその背後に音楽の深みがあるのがフルトヴェングラーでしょう。

音のよく澄んだ名演としてはルツェルンの第九という録音があります。

 

ルツェルンの第九

 

よろこびの歌の思い出

 僕がよろこびの歌を知ったのは確か、中学のときで、この記事の番号でいう2番の部分、一番有名な部分を歌った。

知ったといってもメロディーはもとから知っていたと思う。

そのメロディーにのせて、歌えるようになった。

 

フロイデーシェーネルゲッテルフンケントホテルアオスエーリージウーム・・・

昔はゲッテルフンケンを月照糞犬とかなんとか語呂合わせしていたようだから、それに比べればましかもしれない。

それにしても糞犬はないだろうと思う。

 

それがドイツ語を始めて、フロイデがFreudeに変わって、シェーネルがschönerになっていくのは面白いことだった。

まあ、全貌がはっきりしたのはつい最近、シラーでも読んでみようかと思い立って、原書を調達してからだったが。

 

それにフロイデがFreudeに変わるのは意味がわかるということだけではなくて、音という詩にとって最も大事な部分が変化することでもあった。

実際、ドイツ語を知らない日本人がこの歌を歌うと、フロイデはどうにかなっても、シェーネルがどうにもならない。

月照糞犬もどうにもならない。

 

僕は小さいころ、日本語しか知らなかったから、日本語の音は完全なもので、すべての意味を表しうると思っていた。

いや、実際日本語は日本語の発音ですべて表せるのだから、これは全く正しいのだが、英語をはじめても、英語の音が日本語と”全く”違うということに気づくのには相当の時間がかかった。

いってしまえば、英語も、ドイツ語も、日本語と同じ音などひとつもないのである。

 

は行の子音とfが違うことはすぐに理解できたが、フロイデのデとFreudeのdeが違うということを”認識”したのはわりと最近の話である。

発音自体は前から出来ていたかもしれない、が、Freudeと発音しても頭の中(意識)では確実にフロイデと変換されているのだ。

しかし、これはしょうがないことかもしれない。

 

フロイデが頭から離れなくても、発音や意味をなんとなくでも捉えられるようになっただけよかったと思う。

ドイツ音楽が好きだからという理由ではじめたドイツ語が音楽のわくを超えて、利益をもたらすなどということは予想外の仕合せであった。