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きつねの音楽話

老人性古本症候群を患った若者の徘徊ブログ

R.シュトラウス/H.ヘッセ ”4つの最後の歌”より「眠りにつくとき」をドイツ語で味わう

このところヘルマン・ヘッセの詩を扱っていました。

→『ヘッセ作 春の嵐から「Nacht 夜」をドイツ語で読む 

→『【孤独の詩】 ヘッセ作「Im Nebel 霧の中」をドイツ語で読む

 

それでR.シュトラウスがヘッセの詩に歌をつけたものがあることを思い出したのですが、詩をみながら聴いてみるとよい歌でしたから紹介します。

 

 

R.シュトラウス ”4つの最後の歌”から「眠りにつくとき」を聴く

この曲はR.シュトラウス最晩年の1948年に作曲されました。

文字通りシュトラウス白鳥の歌(Schwanengesang)です。

※正確にはMalvenという曲が最後の歌らしい。

R.シュトラウスと4つの最後の歌

R.シュトラウスを知らないという方もいると思われるので、ほんの少しだけ紹介します。

R.シュトラウス Richard Strauss (1864-1949)

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シュトラウスというと”ワルツの父”とか”ワルツ王”とかのシュトラウス一族が有名ですが、R.シュトラウスはこの一族とは関係がないようです。

Straußというと”花束”なんかのことですが、このファミリーネームがどういう由来なのかは知りません。

没年をみるとわかるとおり戦後まで生きていた人ですが、作風から普通ロマン派に位置づけられます。

よくドイツ後期ロマン派最後の大家などといわれます。

印象派とか、あるいは12音音楽が台頭するなかでよく伝統をまもったということでしょう。

 

R.シュトラウスはオペラや交響詩、またこの「4つの最後の歌」のように歌曲の分野で活躍した人です。

有名曲は「バラの騎士(オペラ、三重唱が特に有名)」「アルプス交響曲」「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら(交響詩)」など

 アルプス交響曲はこの記事でも紹介しました。

fuchssama.hatenablog.com

4つの最後の歌 Vier letzte Lieder

4つの最後の歌は

 

1, 春 Frühling

2, 九月 September

3, 眠りにつくとき Beim Schlafengehen

4, 夕映えの中で Im Abendrot

 

からなります。

1~3はヘッセの詩が、最後の曲はアイヒェンドルフの詩が使われています。

作られた順序はアイヒェンドルフのものが一番先で、48年の5月、「春」が7月、「眠りにつくとき」が8月、「九月」が一番最後9月のようです。

シュトラウスがこれら4曲をまとめて歌集にしたわけではないようですが、シュトラウスの死後このように発表されました。

 

シュトラウスは戦後、戦犯騒動などがありスイスに移住しましたが、同じくスイスに住んでいたヘッセの詩をファンから送られたことでこれらの歌が生まれたようです。

現代のような分裂の時代にこういうむすびつきがあるとなにか新鮮で暖かい感じがします。

眠りにつくとき Beim Schlafengehen

 Hermann Hesse 

Juli(7) 1911

 

Nun der Tag mich müd gemacht,

ヌーン デル ターク ミッヒ ミュート ゲマハト

Soll mein sehnliches Verlangen

ゾル マイネ ゼーンリッヒェス フェルランゲン

Freundlich die gestirnte Nacht

フロイントリッヒ ディー ゲシュティルンテ ナハト

Wie ein müdes Kind empfangen.

ヴィー アイン ミューデス キント エンプファンゲン

 

Hände laßt von allem Tun,

ヘンデ ラスト フォン アッレム トゥーン

Stirn vergiß du alles Denken,

シュティルン フェルギス ドゥー アッレス デンケン

Alle meine Sinne nun

アッレ マイネ ズィンネ ヌーン

Wollen sich in Schlummer senken.

ヴォッレン ズィッヒ イン シュルンメル ゼンケン

 

Und die Seele unbewacht

ウント ディー ゼーレ ウンベヴァッハト

Will in freien Flügen schweben,

ヴィル イン フライエン フリューゲン シュヴェーベン

Um im Zauberkreis der Nacht

ウム イム ツァオベルクライス デル ナハト

Tief und tausendfach zu leben.

ティーフ ウント タオゼントファッハ ツー レーベン

 

Nun der Tag mich müd gemacht,~

・Nun der Tag mich müd gemacht,

Nun 文の形をみると接続詞として使われていて、~だから とか ~なので等の意味を表しているようですが、普通使われるように”今”の意味を含んでいるようにもみえます。

Tag 英day 昼、日中 ここではいわゆる”一日”のこと

müd(e) 疲れた、くたびれた

gemacht 不定詞machen の過去分詞 英語のmakeにあたる動詞ですが、makeよりも広い意味で使われます。

gemachtの後ろにはhat(不定詞haben 現在完了を作る助動詞 英語のhas)が省略されていて、

 mich müd gemacht hat

で 私を疲れさせた の意

 

もしnunがなければ

Der Tag hat mich müd gemacht

になりますが、ドイツ語は定形後置といって動詞が後置される時があり、

Nun der Tag mich müd gemacht (hat)

という語順になっています。助動詞habenは後置されるとこの場合のように省略されることがあります。

 

・Soll mein sehnliches Verlangen

soll 不定形sollen 英語のshallにあたる助動詞 この助動詞は難しいもので、様々な用法がありますが、主語以外の”何か”が要求していることを表します。”何か”は文のなかには現されません。書いた人とか、あるいはもっと大きく運命(神)の要求を表します。

さてここでは誰のおぼしめしなのか・・・

sehnlich(es) sehnenというのが 憧れる、渇望する という動詞で、その形容詞です。憧れた、渇望せる

Verlangen verlangen 要求する の名詞 欲望、渇望、要求

 

・Freundlich die gestirnte Nacht

Freundlich 友好的な、親密な Freund 友 ここでは副詞として使われている

gestirnt(e) 星のある Stern 星

Nacht 英night 夜

 

・Wie ein müdes Kind empfangen.

wie 英as ~のように

Kind 子ども

empfangen 迎え入れる、歓迎する

 

Soll~ empfangen はひとつづき  

ちょっと長くて複雑なので説明すると、

mein sehnliches Verlangen 私の渇望せる願い が主語

die gestinrnte Nacht 星のある夜 が目的語

私の渇望せる願いは

親しく、星のある夜を

疲れた子どものごとく迎え入れる

のような意味になります。

Hände laßt von allem Tun,~

・Hände laßt von allem Tun,

 Hände Hand 手 の複数形

laßt 不定形 lassen の命令形 von ~ lassen で ~をやめる

all(em) 英all

Tun 動詞 tun する、行う の名詞 行うこと、行為

 

・Stirn vergiß du alles Denken,

Stirn 額(ひたい)

vergiß 不定形vergessen 忘れる の命令形

du 英thou ここではStirnへの呼びかけ

Denken 動詞denken 思う、考える の名詞 思考、思索、考え、想い

 

・Alle meine Sinne nun

Sinne Sinn 感覚、意識 の複数形

Alle meine Sinne 私の感覚すべて

nun はじめと違いここでは副詞 今

 

・Wollen sich in Schlummer senken.

Wollen 英語のwillにあたる助動詞 sollenと違い主語の意思を表します。

sich 再帰代名詞というもので、主語自身を、ここではAlle meine Sinneをさします。

senken は”沈める”という(他)動詞ですが、sich senken で自らを沈める、というので、沈むという自動詞的意味になります。

Schlummer まどろみ in Schlummer まどろみの中に

上の行とひとつの文を作っています。

Und die Seele unbewacht~

・Und die Seele unbewacht

und 英and

Seele 魂

unbewacht wachen というのが英語のwakeにあたる語で目が覚めていることを表します。それがbewachen になると ”見”張る、監”視”する となりますが、それに否定を表すunがついてできた形容詞です。それが副詞として使われています。

 

・Will in freien Flügen schweben,

will 不定形wollen 上にでたのと同じ

frei(en) 英語free

Flüge(n) Flug 飛ぶこと、飛翔 の複数形 Vögel im Fluge で 飛んでいる鳥

schweben 浮かぶ、漂う (鳥が)飛んでいる

 

・Um im Zauberkreis der Nacht

um  次の行のzuと呼応します。 um ~ zu 動詞の不定形 の形で~するために、~しようとしての意

in in dem をつづめた形 

Zauberkreis 魔法の環 Zauber 魔法 Kreis 輪、環

der Nacht 所有格で、Zauberkreisにかかります。夜の 

 

・Tief und tausendfach zu leben.

tief 英deep 深い

tausendfach 千倍の、千重の tausend 英thousand Fachは区切られたある部分をさすことばで、~fachで~倍の、~重の の意

tiefもtausendfachもここでは副詞

leben 英live 生きる

聴いてみる


Gundula Janowitz sings Beim Schlafengehen, Richard Strauss

ソプラノ ヤノヴィッツ

 

音楽だけでも十分すぎるくらい美しい曲ですが、詩をみながら聴くとやはりよいものです。

2節と3節の間にソロ・ヴァイオリンの美しい間奏がはいるのも僕の気にいるところです。

あとがき

他の三曲も美しい曲なので、気になった方は聴いてみてください。

 

 

シュトラウスをもってドイツロマン派はその時代を閉じたとはじめに書きましたが、この曲集はまさにその最後の最後、太陽が沈む直前、夕焼けがいっそう強く輝いた瞬間をみるようです。