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きつねの音楽話

老人性古本症候群を患った若者の徘徊ブログ

飛行機が怖くて苦手な僕によるフライトレビュー

 

真中よりやや後ろの窓際の席に、重い鞄を上の棚へ載せてから座る。間もなくして隣の席に人が座った。この便は満員らしい。

 

落ち着いて窓の外を見ると、ちょうど翼が見えた。先端にいくにつれて細り、はしは反り返っている。数日見なかったのが嘘のように、雲の切れ間からすうと延びた日光が翼の中ほどにやわらかく当たって、いかにも春らしく暖かい。

 

 

「現在確認されています空港上空の気流の乱れにより、機体が揺れることが予想されます。そのため・・・」

搭乗員が機内放送を始めたと同時に飛行機は滑走路へ向けて動き出した。

機体は細かく定められているらしい道順に従って進んでいく。大きな曲がり道にかかると、翼の先がぐるりと回りこんで先回りしているかのごとく見える。思ったより長さがあるようだ。途中他の機が窓の右端から現れて左へ滑って行く。頭を前に突き出して後を追ったが、まさに飛び立とう所で画面から消えてしまった。

 

滑走路に近づくと翼の後半が下に向かって動き形を変えた。おそらくこれで揚力を得るのだろう。宙につられた部品が走行のせいで小刻みに揺れている。こんなふらふらとしたものが、飛行の労に耐えるだらうかと少し心配になった。

 

向うを見ると我が機の前にまた別の機があって離陸の準備をしている。中国のものらしいその機の尾につけたとき、すさまじいジェットの音と共にその赤い機体は急激に速度をあげた。

横から見ていると地をゆるゆると滑っているだけに見え、実際相当の距離を走っても頭が持ち上がらなかったが、本当に飛び立てるのかと思い殆ど後姿しか見えなくなった頃ようやく浮き上がった。

車輪が地面を離れると今度は何かに引っ張られるように急上昇して、あっという間に小さくなった。

 

前の機が飛び立つとすぐに定位置にはいった。エンジンがごうとうなりをあげて、今見たと同じように急発進する。機内ががたがたと音を立て、翼は先より大きく揺れている。機体の進行も左右にぶれるのが感じられる。手に汗をにぎる。

前の方が上がったと思うと全体がふわと浮いた。ぐいと上に持ち上げられる感じがして、空に向けて滑り上っていく。

下を見ると滑走路の尽きたところに灯台が見えた。一つは岸からほど近いところ、もう一つはコンクリートの堤が細く延びぐるりと半円を描いた先にあって、その二つの灯台が湾の入り口を示している。

波はおだやかだが、堤の上は波が被りそうに見えたから、灯台守があの上を歩くとしたら危険だろうと思った。

 

高度をあげて機体は左に傾き旋回する。

浜から見るとそれぞれ思いのままに打ち寄せる波が、上から見ると大きな群れをなして動いているのがわかる。沖の方では皆東に向かって青海波を造っているが、岸に近づくとこれに沿ってそれまで一緒に動いていたのが別の方向へ流れていく。湾のなかにも波が這入り込んでいるが、囲うように堤の腕が伸びている中は穏やかにきらきらと乱れ動いていた。

 

西へ向かっていた飛行機はまた左へ旋回する。

一度海上へ出たのが滑走路の上へ戻った。

ふと暗い機内に目を遣ると皆頭をたれて眠っている。死んでいるようにも見えた。

飛行機はまた旋回する。

 

目線を窓の方へ戻すと、もう雲のある高さまで来ていた。春立てる空に霞懸かった雲が手前の方では幾らか間隔を空けて流れ、奥に行くにつれ密に重なっている。

我が機は旋回しながら雲に沿って飛び、ついに一回りしたかたちになった。海上を架ける鉄橋の先にもやの懸かった大きな町が見え、その奥には山々が東西にぼんやりと連なっている。

 

いよいよ雲の上まで来た。叢雲の上に薄いもやもやした雲が所々にある。

旋回する機体が北へ向き全く雲より高くあがると、盛っては沈む白波が彼方まで続いていた。

顔を窓に寄せて周りを見ると、果てなく連なる白雲が、空港の上空だけはぽかりと円い穴を開けている。

我が機はその明るいところを抜けて天空に、揺れなく進んで行った。