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きつねの音楽話

老人性古本症候群を患った若者の徘徊ブログ

【孤独の詩】 ヘッセ作「Im Nebel 霧の中」をドイツ語で読む

前回「ヘッセ作 春の嵐から「Nacht 夜」をドイツ語で読む」を紹介しましたが、記事のおわりに”思いついた”とか書いたのが今回紹介する「Im Nebel」です。

この詩はヘッセの詩のうちで最も親しまれているものの一つのようで、確かに、僕の心にも強く印象付けられています。

 

 

Im Nebelをドイツ語で読む

 全体は四つの部分に分かれていて、それぞれ四行からなっています。

ちょっとだけドイツ語の文法的なことにも触れましたが、細かいところまで気になる人のために書いたので、無視して構いません。

IM NEBEL イム ネーベル 霧中

 

Seltsam, im Nebel zu wandern!
ゼルトザーム イム ネーベル ツー ヴァンデルン

Einsam ist jeder Busch und Stein,
アインザーム イスト イェーデル ブッシュ ウント シュタイン

Kein Baum sieht den andern,
カイン バオム ズィート デン アンデルン

Jeder ist allein.
イェーデル イスト アッライン

 

Voll von Freunden war mir die Welt,
フォル フォン フロインデン ヴァール ミール ディー ヴェルト

Als noch mein Leben licht war;
アルス ノッホ マイン レーベン リヒト ヴァール

Nun, da der Nebel fällt,
ヌーン ダー デル ネーベル フェッルト

Ist keiner mehr sichtbar.
イスト カイネル メール ズィヒトバール

 

Wahrlich, keiner ist weise,
ヴァールリッヒ カイネル イスト ヴァイゼ

Der nicht das Dunkel kennt,
デ(ー)ル ニヒト ダス ドゥンケル ケント

Das unentrinnbar und leise
ダス ウンエントリンバール ウント ライゼ

Von allen ihn trennt.
フォン アッレン イーン トレント

 

Seltsam, im Nebel zu wandern!
ゼルトザーム イム ネーベル ツー ヴァンデルン

Leben ist Einsamsein.
レーベン イスト アインザームザイン

Kein Mensch kennt den andern,
カイン メンシュ ケント デン アンデルン

jeder ist allein.
イェーデル イスト アッライン

 

Seltsam, im Nebel zu wandern!~

 

・Seltsam, im Nebel zu wandern!

seltsam 英strange, odd 独特の、奇異な

Nebel 霧

wandern 歩く;さすらう、放浪する

 

im Nebel zu wandernでひとつの塊になっていて、霧の中歩くことの意

Seltsam 不思議だ といって、何が不思議かというのを、~zu wandernで説明している。

 

・Einsam ist jeder Busch und Stein,

einsam 独りの、孤独の

ist 英is ~である

jeder 英every; each 各々の、すべての

Busch 藪、しげみ、灌木(背の高くならない木)

und 英and

Stein 石

 

散文なら Jeder Busch und Stein ist Einsam.

Einsamが先に置かれると一種強調された感じがある。

日本語の倒置と同じ

 

・Kein Baum sieht den andern,

kein 英no 否定冠詞というもので修飾された名詞が”ない”ことを表す。

Baum 木

sieht 不定形sehen 見る

den andern 他の(木) ちょっと難しい話になりますが、定冠詞とander 他のという形容詞ですが、格をみると男性名詞が省略されていることがわかります。つまりここはBaum(男性名詞)の省略。ドイツ語は同じ語の繰り返しをきらいます。

 

全体で、どの木も他の木を見”ない”の意

直訳すると、無い木が他の木をみる、となりますが、日本語でいうとこう言うのが自然です。

 

・Jeder ist allein.

 jeder 上では形容詞的な使い方でしたが、ここでは名詞的で、各々、すべての人の意

ここでは人に限らず、私も、木も、石も、みんな、という意味でしょう。

 allein 独りで sein(ist) allein でひとりぼっちだの意

Voll von Freunden war mir die Welt,~

 

・Voll von Freunden war mir die Welt,

voll 英full 満ちている、豊かな

von voll von~ で ~に満ちている

Freunden Freund 友の複数形(与格)

war 英was sein(英be)の三人称単数過去 ~であった

mir わたしに

Welt 世界

 

この行は順がかなり入れ替わっているのでわかりにくいかもしれません。

散文なら

Die Welt war mir voll von Freunden.

となります。

意味は、世界はわたしにとって友だちにみちていた。

もちろん詩では前から読んでいきますから、左から順番に頭にはいってきます。

つまり、Die Welt war mir voll von Freunden.と読むのと、Voll von Freunden war mir die Welt,と読むのでは感じが違います。

 

・Als noch mein Leben licht war;

Als 英as 過去における”同時”を表します。~した時

noch 未だ

mein 英my

Leben 英life 生きること、生活

licht 名詞Licht は英語のlight この語は形容詞でbright明るいの意

この行は上の行とalsで繋がっています。

 

・Nun, da der Nebel fällt,

Nun いまや、さて

da daというと英thereなどにあたるもので漠然と”そこ”ということを表しますが、ここでは接続詞で原因・理由を表します。~だから

Nebel 霧

fällt 不定形fallen 英fall 落ちる ここでは 霧が”おりる”

 

・Ist keiner mehr sichtbar.

mehr mehrは否定を表すもの(否定詞)と合わせられて(例えばnicht mehr)、もはや~ない の意味になります。 英no longer

ここではkeinと呼応して、もはや誰も~しないの意

sichtbar 見える Sichtは見ること ~barはBahre担架あるいは棺(英bier) と関りのある語で、語の後ろについて担える、もてる(例fruchtbarフルフトバール 実り多き fruchtは英fruit フルーツ)の意、それから派生して可能の意を表します。英語の~able 例tragbar トラークバール tragen トラーゲン は持ち運ぶという動詞。英語のportable ポータブル

Wahrlich, keiner ist weise,~

 

・Wahrlich, keiner ist weise,

wahrlich 真に、たしかに wahr 真実の

weise 英wize 賢い

 

・Der nicht das Dunkel kennt,

der これは関係代名詞というものですが、説明するとちょっと難しいので、ここでどういう働きをもっているかだけ説明すると、der~はkeinerの補足、つけたしということになります。

keiner ist weise といって、さて賢くないのはだれかというとそれが、der以下に書かれているわけです。

関係代名詞は基本強く発音します。またderがデールのように長く発音されることがあります。(下にでるdasも強く発音しますが、これは長くはならないようです。)

Dunkel 闇

kennt 不定詞 kennen 知る ただ知識として知っている場合はwissen ヴィッセン といいます。kennenはもっと親密です。

 

・Das unentrinnbar und leise

Das これも関係代名詞です。上の行のdasはただの定冠詞(中性)ですが、これはDunkelがどういうものかを表すものです。

unentrinnbar 逃れ得ない rinnen リンネン というのが流れるとか滴るとかそういう動詞でentrinnenというと、岩なんかから水がでているような状態を指します。そこで何かから逃れ出るというような意味になるのですが、そこに上にもでてきたbarがついて、逃れうるという形容詞になります。さらにそこにun(英語のin~或はim)が ついて、逃れ得ないという意味になります。

leise 静かに、かすかに

 

・Von allen ihn trennt.

 von allen すべて(のもの)から

ihn 彼を つまりkeiner

trennt 不定詞trennen 分ける、引き離す

この行は上の行と合わせてひとつの文です。散文であればihnがdasのあとにくるでしょうか、まあでもこの文はそこまで非常な感じもしないと思います。

Seltsam, im Nebel zu wandern!~

 

・Seltsam, im Nebel zu wandern!

始めと同じ

 

・Leben ist Einsamsein.

Einsamsein seinというのは英語のto beにあたるものですが、これがどうも日本人にはわかりにくい。ここでは名詞ですから Seinで、在ること、存在、実在、あるいは生存(Leben)、そして本質などを意味します。

Sein und Shein ザイン ウント シャイン 実存と仮象

Sein, oder Nicht Sein ザイン オーデル ニヒト ザイン To be, or not to be

 

・Kein Mensch kennt den andern,

Mensch 人

den andern Mensch省略

 

・jeder ist allein.

 上と同じ

あとがき

まず始めと終わりが(多少の違いを除いて)同じだということが目につきますね。

同じものが繰り返されると、ある種の効果がありましょう。まあ音楽的といっていいのかもしれません。三部形式とか五部形式とか、そういうものと似た効果がありますね。歌にしやすそうです。

二つ目の塊と三つ目の塊は違う要素で、よく観察すると起承転結などとは別の強固な構成をもっているようにみえます。

僕は詩については大して詳しくないのでわかりませんが、詩がどういう構造をもっているのかよく研究するのも面白いですね。

 

今回は註をつけていて、ちょっとこれだけでは意味がわからないかもしれないなあというところがいくつかありました。

もし気になる方がいればコメントしてくだされば、”わかる範囲で”答えます。難しいことはわかりません。

 

この詩はヘッセの小説「秋の徒歩旅行」中にでてくるもののようですが(ヘッセ29才のときの作)、僕はこの小説を読んでいません。

孤独をテーマにしながら、なんでしょう、絶望はしていません。(かといって孤独がよいともいわない。)

ヘッセの孤独に対する考えは三節目に書かれています。この詩の中心もまたここでしょう。

Nachtにも感じられたヘッセ独特の”感じ”がこの詩にも強くでているように思われます。

 

NachtとIm Nebelについて書いていて、ヘッセの詩なんかをもう少し紹介したいなあという気になりましたから、またそのうちに書くと思います。

詩作というと恋愛にあてられた乙女のすることという観念?が日本にはありますが、日本で戦後ヘッセがかなりひろく読まれたようですから、ロマンティックな要素はあるいはヘッセ由来のものかもしれません。

まあとにかく、詩というのも結構面白いよということを伝えられればいいかなあと思うわけです。