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白雪姫を英独で読み比べてみる【グリム童話】

今週のお題「読書の秋」

 

僕は外に出るときほとんど必ず何か本を持ってでるのですが、その外出が長くなるときは何を持って出るかよく考えます。

この間遠出したときはあまり難しいものだと手につかないだろうと思われたので、易しい読み物を持っていくことにしました。

 

英語は開隆堂の中学生向けのテキスト「SNOW WHITE」

ドイツ語は大学書林の語学文庫の「グリム 白雪姫」

両方とも前に読んだことがあって易しいものなのでちょうどいいやと思って持っていったのですが、

これがなんとも馬鹿らしいのですが、

読み始めてから気づいた、これ同じ話でした。

 

 白雪姫を英独で読み比べる

英語のほうは開隆堂という英語参考書をたくさん出している出版社のもので、

Kairyudo Easiest Seriesというもののうちの一冊。

僕の持っているのは古いものなので、今は手に入りませんが、新イージェストシリーズというのが今は出版されています。

僕がよんで便利だと思ったのは巻末に辞書がついているところ。

あんまり見すぎるのもよくないけれど、ざっと全体を読む段階でどうしてもわからないときすぐ参照できるのはいい。

 

ドイツ語のほうは大学書林の対訳版

これは現役で出版されています。 

対訳なので、日本語訳がついています。あと語彙に多少の註つき。

 白雪姫のほかに「ヘンゼルとグレーテル」「ホレ婦人」が収録されています。

僕は日本語訳が邪魔なので対訳というのはあまり好きませんが、註は結構ためになります。

 

読み比べてわかりましたが、英語のほうは教科書用に書き直したものです。

大体の筋は同じですが、簡略化されていて、また細部が作り変えられています。

ドイツ語のほうはグリムの原作(おそらく第七版)からとられたものです。

英語の書き直されている部分

簡略化はほぼ全体に及んでいるので、すべてみても仕方ないのですが、内容が決定的に変っているところというのもあります。

例えば、女王が白雪姫を殺すよう狩人に命令しますが、殺した証拠として狩人は白雪姫(実は獣の)の肺と肝臓を持って返ります。

それを女王はコックに調理させて食べてしまいます。

その部分は英語のほうにはありません。

 

また英語のほうの最後、女王は白雪姫が生きていることを知り、憤怒したばかりに(たぶん脳出血かなにかで)死んでしまいますが、原作のほうは焼けた鉄の靴を履かされて死ぬまで踊ったことになっています。

 

英語のほうは中学生向けの教科書というので過激な表現を少しやわらかくしたようです。

英文は巧みにつくられたもので、初級の教科書にはふさわしいと思いますが、物語としてはやはり原作のほうがはるかに優れたものです。

グリム童話の白雪姫

白雪姫というと日本ではディズニー映画の印象が強いんでしょうか。

これがグリム童話に入っているものだということを知らない人が多いようです。

ディズニー映画にはグリムに原作を持つものが結構あります。

シンデレラとかラプンツェルとか

 

まあ僕はディズニーのほうも嫌いじゃありません。

 前にどこかでDVDが安く売られているのを見つけて買って観たんですが、ミュージカル仕立てで結構面白かったです。

それから英語のリスニングの訓練にもいいと思いました。ただ確かちょっと古い英語が使われていたような気がしますが。

ハイホーハイホーいうところ(下の9曲目)や、有名なワルツ(?17曲目)があって楽しい映画です。邦題は「いつか王子様が」かな?

 

鏡に話しかける女王

白雪姫の有名な場面といえば女王が魔法の鏡に話しかけるシーンがあります。

原作ではこのようになっています。

 

Spieglein, Spieglein an der Wand,

Wer ist die Schönste im ganzen Land?

 

鏡よ、壁の鏡よ、

国中で一番美しいのはだれか。

くらいのもの

日本では

鏡よ、鏡よ、”鏡さん”

などというんでしょうか?あるいは魔法の鏡?

とにかく”壁の”というのは入らないような気がしますが

英語のほうはこう訳されています。

 

Magic Mirror on the wall,

Who's the fairest one of all?

 およそ同じですが、どうもこうすると具体性がないような気がします。

ドイツ語のほうは国中というんで、さてどこの国かはしりませんが、一応限定されています。英語のほうはallですからね。

あとドイツ語のほうは語の形を見ると鏡がそんなに大きくないということがわかります実は。

おそらく姿見のような大きなものではなく壁掛けの顔を映す程度の大きさのものなんでしょう。

グリム論

内臓を持ってかえらせて食べてしまったり、毒りんごで殺そうとしたり、最後には焼けた靴を履かせたり、

グリム童話は残酷なことでも有名です。

これは白雪姫に限りません。

グリム兄弟が出版した当時もそれが問題になったらしく、版を重ねるごとに残酷な部分は少なくなっていったよう。

第7版が生前に出版された最後のもので、ふつう翻訳などされて出版されているものはこれによっているようです。(今回読んだ英語の読本はこれをさらにぼやかしている)

 

グリム童話の研究は昔から盛んだったわけではないみたいですが、最近は多少研究されているみたいです。

僕の知っているものではこれがグリム童話論として面白いものです。

テーマは副題にあるように「子どもに聞かせてよいか?」

グリム童話の残虐性(質)についてや物語の構造など流し読みにしているだけでは気づかないようなことが色々と書かれています。

諸研究が紹介されたりしていますが、別に難しくはありません。

 

この著者は、詳しくは知りませんが、僕の先生の恩師だか恩人だかで、この本のことは先生から教えてもらいました。

終りに

毒りんごで死の眠りについているところ、王子が現れ助けられるという場面が白雪姫にはあります。

(白馬の)王子というのはここらへんに由来するんでしょうが、それだけが一人歩きして何か女子の憧れの象徴と化している感があります。

が、それだけが特別に人の心を捉えるというのではなく、グリム童話というのは全体が人間の性質を深く表すもののようです。

つまりディズニーの発明のみによって白馬の王子という概念ができたのではなく、それは人の心に始めから巣くっているんでしょう。

 

またグリムの話は現代小説風の筋の巧みさみたいなものからはかけ離れたものですが、それだからこそ面白いところがあります。

ドイツ語で読んでいると筋が見えないので、読み方があっているのかあっていないのかよくわからないこともしばしばで、僕の推測を超えた話の展開がいつも待ち受けています。

 

日本語訳は各出版社からでているので興味があれば読んでみてください。

上の本の著者野村泫さんの訳はちくま文庫から出ています。

 

僕はとりあえずドイツ語で眺めたりしていますが、そのうち英語訳仏語訳を手に入れて読み比べたら面白そうだなあと思っています。

さようなら、今日はこの辺で