きつねの音楽話

老人性古本症候群を患った若者の徘徊ブログ

久しぶりにヴァイオリンを弾いたら指が痛すぎる

このところヴァイオリンを修理にだしたり、楽譜を新たに買ったりという内容の記事を書いておりましたが、準備がおわってすこしずつ楽器を弾き始めています。

 

楽器の弾き方というのは、泳ぎ方とか自転車の乗り方とかと同じで、一度身に着けると全く不能になるということはないようで、しばらく弾いていなかったにかかわらず不思議と前と殆ど同じように弾けています。

 ただそういう感覚的なことはかわらなかったものの休んでいたことによって変ったことがあります。肉体です。

 

ヴァイオリンだけでなく、ギターでもなんでも弦楽器をやっている人はわかるでしょうが、弦楽器をやっていてもっともダメージを受ける部分は”指先”です。

 

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ヴァイオリンの弦というのはこんな具合なんですが、一番細い線なんてもうこれは凶器です。

押さえると指先にぐいと食い込んできます。

 

これが結構なダメージになる。

普段から弾いていると、これが身体の不思議なんですが、指先が”タコ”のようになって堅くなります。僕の場合は指先が透明になります(みんなそうなるのか知りませんが本当になります)。

それで食い込みにくくなりダメージも緩和されます。

それがこれまた不思議と暫く弾いていないと、一度ヴァイオリンの弦という凶器に適応した指先が元通りぷにぷにになります。

家で飼われている犬が敵がいないのをいいことにひっくり返っていびきをかくように、全く怠けきってしまうわけです。

 

その元通りになった指先をもって弦を押さえると、まあ押さえられないわけではないのですが、弾き終わったあと熱をおびてじんじんと痛みます。

そうそう、書いていて思い出しましたが、硬化した指先というのは代謝が非常によくわかります。あるいは他のところより活発になるのかもしれません。

先生がいうには年をとるとなくなってしまうそうですが、僕なんかは指先が頻繁にいれかわっていました。特に高校生のときなどは2週間に一回くらい指先が脱皮していた気がします。

硬化した皮膚が堆積したものが一定度を越すとべろんとはがれてしまいます。はがれると、それも薄くはがれるのではなくて固まりがとれるので、柔らかい皮膚がでてきて弦がおさえにくくなります。というのでレッスン前ははがさないように気をつけていました。

 

そして指先がやわらかくなっただけならまあまたすぐ堅くなるでしょうし問題ないのですが、別のもっと重要なことがありました。

それは手指の柔軟性です。

ヴァイオリンの訓練は、他の楽器もそうでしょうが、音階(スケール)練習というのがもっとも大切なものです。

楽器をやらない人はもしかすると誤って想像しているかもしれませんが、楽器の練習というのは曲を弾くだけではありません。曲を弾くために様々なトレーニングをします。

それでその音階練習を日々やらねばならないのですが、ヴァイオリンの場合は単音(一音)の音階の他、重音(二音)の音階というのがあります。

音の”幅”によって三度、六度、八度、十度とあるのですが、この十度というのが非常に難しい訓練で、指の柔軟性が必要になります。

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これは人差し指で二番線のシ♭を小指で一番線(一番細い弦)のレを押さえています。

シ♭ーレ(ドレミファソラシド)の間隔が十度というわけです。

十度の音階では十度の音程を保ちつつ音階をつくります。

例えばハ長調だと、ドーミ、レーファ、ミーソ・・・のようにです。

 

そしてこれがかなりきつい柔軟体操です。

継続して訓練していたときはやはり柔らかさが保たれて多少のことではなんともなかったのですが、久しぶりにやると大変なつらさ。

練習をおえたあとふとした拍子に腕がつったようになります。

手指というよりは腕の筋肉が張るようです。

指先は直接弦から攻撃されますが、回復力がすごく高いので指先のダメージで弾けなくなるということはまずありません。それより他の楽器と同じように、関節の怪我のほうが多く、こういう柔軟性が問われる練習は慎重にやる必要があります。

 

ずっと楽器の訓練をしていて考えるようになったのですが、楽器の演奏というは何よりまず身体の柔軟性と適切な筋肉が必要です。

音楽を聴くのは頭ですが、演奏するのは身体ですから、曲を弾きこなすためには楽器に適応した柔軟さと力強さがまずなにより必要なんでしょう。

一流の演奏家はそういうところを超越してしまっているので、軽々演奏し、なにやら頭で弾いているような印象を与えますが、素人がそれをやると絶対に成功しません。

 

というわけで弦楽器をやっている人は手や指先が進化しているのですが、ヴァイオリンの場合手指以外にも変化するところがあります。

それはあごです。

ほとんどのヴァイオリン奏者が楽器にあごをあてて演奏するので、あごの下の左のほうに”あざ”ができます。

これはおそらくほとんど全員にあるので、あごの下を観察すればヴァイオリン奏者かどうか確認できます(笑)

僕の場合は鎖骨に楽器を載せて演奏するので、左の鎖骨の部分の皮膚にもあざがあり、右より厚く盛り上がっています。

ちなみにこの演奏法はほとんどされないので、普通鎖骨にあざはありません。

このあざも弾いていないとどんどん薄くなっていくのですが、久々に弾くと防御力がおちていたようで、あごの下が軽い炎症をおこしました(笑)

 

 

 これを見ると一見優雅なヴァイオリン演奏が実は血みどろの、というといいすぎか、まあ運動の訓練、スポーツの練習とあんまり変らないといってよいと思われるんじゃないでしょうか。

芸術の場合難しいことをやっているということが前面にでてしまうと観客の目がその技術に向いてしまうからか、とにかく簡単そうに弾くというのが重要とされているようです。が、実際はその血のにじむような訓練を衣装の下に忍ばせているわけ。

 

うん、なんにせよ、身体の適応能力というのは不思議なものです。