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きつねの音楽話

老人性古本症候群を患った若者の徘徊ブログ

楽器屋とやたら親しい僕によるヴァイオリンの弦レビュー(おすすめの弦と選び方)

2017年1月6日投稿 2017年2月10日更新

 

弦楽器は消耗する部品が多くて、特に弦は頻繁に張替えないといけないのですが、始めたばかりのころはどれを選んでよいのかわからずに困ります。

僕もそこまで多種の弦を使ってきたわけではありませんが、困れる初心者の参考のために、弦の特徴や値段を比較してみます。

 

僕は弦楽器屋の店員(職人さん)と親しくしてもらっていて、よく職人の人しか知りえないような知識を教えてもらうので、そういうことも合わせて書きます。

 

 

ヴァイオリン弦のレビュー

ヴァイオリンの弦を選ぶときは、自分の弾き方や使っている楽器に考慮する必要があります。

そのためにまずヴァイオリンの弦の種類を把握しておく必要があります。

弦の種類

ヴァイオリンの弦は”芯”の違いによって、

  1. スチール
  2. ナイロン
  3. ガット

の三つに分けられます。

スチール弦

弦の芯がスチールのもの。スチールは鋼のことで、鉄を主成分とした合金です。

価格は比較的安い

ナイロン弦

弦の芯がナイロン(他化学繊維)のもの。

価格は安いものから高いものまである。

ガット弦

弦の芯がガット(羊の腸)のもの。

価格は高め

 

芯の周りにはアルミ等の金属が巻かれています。

ナイロン弦(のセット)でもガット弦でもE線はおよそスチール弦(+メッキ)です。

弦のレビュー

以下は実際に使った感想やら職人さんに聞いたことやらを交えて弦を紹介します。

※画像はAmazonから(以下同様)

※価格は2017年2月10日現在Amazonでのものです。

※リンクに一応示しますが、購入の際はE線の種類(ボールエンドとループエンド)にご注意ください。

※画像は見本ですから、リンク先(セット)のものと一部外観の違うものがあります。

スチール弦

クロムコア (ピラストロ社)

名前からして金属的なスチール弦

価格が安いので一度使ってみました。音色は澄んだ、いわば金属的な音。

僕は作られてから百年ほどの楽器を使っているのですが、職人さんは古い楽器に張力の強いスチール弦は張らないほうがいいといっていました。

新しい楽器を使っているかた、また子供の練習用には適するかもしれません。

 

ヘリコア (ダダリオ社)

数年前に何度か使ったことがあります。

スチール弦は倍音が少なく音が硬いため敬遠されることが多いですが、調弦が楽なことや反応がいいことから、これを好む人もいるようです。

僕もやはり硬めのバリバリとした音という印象。はっきりした音色が好きな人にはよいかもしれません。

またエレクトリックヴァイオリンやサイレントヴァイオリン用には適しているようです。

 

ナイロン弦

ドミナント (トマティーク・インフェルド社)

ドミナントは一番よく使われている弦で、大体の楽器に適するようです。

ただし僕の楽器にはあまり合いません。

輝かしい音色が特徴ですが、寿命が短いところが玉に傷で、だいたい三ヶ月に一度くらいは張り替えたほうがよいようです。

価格は安めなので、試したことがない方は一度試してみるとよいでしょう。

 

オブリガート (ピラストロ社)

ガット弦の音色を目指してつくられた、E線がゴールドの高級なナイロン弦

ちょっと値段が高いのであんまり頻繁に替えられないですね。

輝かしいが暖かく落ち着いた音色で、僕はしばらくこれを愛用していました。

僕の先生はこの弦があまり好きではなかったようですが、これもまた楽器との相性かもしれません。

普段とは別の弦をはってみたいという人なんかにはおすすめです。

 

高級なナイロン弦といえば他にエヴァ・ピラッツィ(ピラストロ)がありますが、僕はこれは使ったことがありません。次替えるときは試してみたいですね。

 

インフェルド赤 (トマティーク・インフェルド社)

これもE線が金メッキのかっこいい弦

明るく甘い音のする弦で、特にE線は艶やかないい音がします。

僕はこのインフェルドの赤を一番多く使っていて、今もこれを張っています。

寿命も長めです。

ただやや派手なので人によっては飽きる音のようです。

僕はほとんどソロで、たまに弦楽四重奏をやりますが、その辺をバランスよくこなせるような気がします。

 

インフェルド青 (トマティーク・インフェルド社)

インフェルドの赤をくださいといったら品切れで仕方なく買って使ってみた弦

しかし僕の楽器には合っていなかったようで、音がややくすんでしまいました。

後日楽器屋でE線を赤にかえてもらったところ見違えるように輝かしくなったので、相性が悪かったようです。

僕の楽器と趣味に合わないだけで、赤的な派手な音色を好まない人にはよいと思います。

店の人によると室内楽をやるにはあっているらしいです。

 

ガット弦

オリーブ (ピラストロ社)

ガット弦といえばオリーブという感じがします。

やはりガットこそヴァイオリンの音でしょう。

ただ本当に高額な上、湿度の高い日本では弦が安定しにくく切れやすいという短所もあります。

寿命はおよそナイロン弦よりながく、半年以上は持つようです。

よく奮発してオリーブを買ったという話を聞きます。そういう弦です。

 

オイドクサ (ピラストロ社)

 これもピラストロのロングセラーで、オリーブより値段が安くガット弦を試してみたいという人におすすめ

張力がやや弱いので、若干弾きにくさがあります。

 

E線

E線だけ他の弦と違うものを張るということもできます。

ゴールドブロカット (レンツナー社)

E線単品といえばゴールドブロカットで、錆びやすいですが、価格が安いのでなんども張り替えて使います。

太さが0.25、0.26、0.27、0.28mmの四種類あって、ふつう0.26と0.27が使われます。

どちらかというと0.26のほうが人気のようです。

特にオリーブとの相性がよく、オリーブ三本とゴールドブロカットの組み合わせにしている人が多いようです。

どの弦がよいか

個人的には自分の好みにも楽器にも合っているインフェルドの赤を気に入っていますが、やはりこれは本当に個人差、楽器差がでるところだと思います。

ですから、まああまり頻繁に種類をかえるのもどうかとは思いますが、いろいろと試してみることが重要でしょう。

今のところ上にも書いたとおり、スチール弦の響きはナイロンやガットに劣るところがあるといわれています。特に古い楽器を使っている人はスチール弦を使わないほうがよいでしょう。

ガット弦は音自体はもちろんよいのですが、高温多湿の気候にはあいませんから、湿度調整などの適切な管理が特に必要です。

なにかつけたことのない弦をはってみたいというかたはとりあえず音のよく、気候の変化につよいナイロン弦をおすすめします。

ガット弦を試すなら、E線をゴールドブラカットにして費用を抑える手があります。

ドミナントなどもE線をゴールドブラカットにすることがあるようですが、インフェルドの赤やオブリガートはE線によさがありますから、値ははりますがそのままセットで使ったほうがよいかもしれません。

弦のメンテナンスについて

以下は僕が直面したトラブルとその解決法等を書きます。

調弦が合わないとき

調弦は弦楽器を演奏するうえでもっとも重要で、やっかいなことです。

なれないうちはこれに相当の時間をかけてしまいます。

よく調整された楽器なら簡単に調弦できますが、僕が始めて持った楽器は古く調整が甘かったので、すぐに調弦がくるいました。

調弦が狂うときは普通、

  1. 弦が新しい時
  2. 季節の変わり目
  3. しばらく使っていなかった、あるいはペグが回って弦が緩んでしまった時

などですが、これらの理由もないのに調弦が狂うとき、ちゃんとあわせたのに音高がかわってしまうときは楽器自体の問題を考えてみたほうがよいかもしれません。

 

僕の場合は、ペグの穴の位置が悪く、ペグと(他の)弦が接触していたことが問題でした。

これは古い楽器によくあることみたいですが、ペグの穴は使っているうちにひろがるので、そのうちに埋めなおして新たに空ける必要があります。

そのとき穴の位置が悪くなると、調弦やその他のことにまで影響がでるようです。

弦がすぐに切れるとき

弦は消耗品ですから、長く使っていればいつかは切れますが、張って間もなく切れるなんてことが続いたら楽器の問題を疑ったほうがよいです。

僕の場合はペグのボックスと指板の間にある”ナット”(弦が接触している部分)の”みぞ”が経年で深くなっていたことが問題でした。

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ナット

 

ヴァイオリンは本体以外ほとんど消耗品なので、ナットや指板も定期的に取り替える必要があります。

弦が切れやすい人はナットに原因があるかもしれません。

ナットは弦楽器の工房に注文して直してもらいます。

弦を張り替えるタイミング

はじめたばかりだといつ弦をはりかえればよいのかわかりません。別に切れない限りずっと弾いていて問題ないのですが、音が悪くなったり調弦がしにくくなるので、定期的に替えたほうがよいです。

よく弦の寿命は三ヶ月から半年ほどといわれますが、よほど熱心に弾いていないかぎりはもう少し長く弾けると思います。

およそ半年(から一年)と考えて半年過ぎたころに次替えるタイミングを弓の毛などと合わせて考えるとよいです。

弦は弾いたあと掃除をして清潔に保つことで寿命が延びます。

その他メンテナンスについて

楽器のことは先生や、できれば工房の職人さんにきくとよいです。

職人さんにきけば楽器の構造から普段の手入れまで教えてもらえます。

 

楽器の構造、手入れ、メンテナンスの基本的な知識のためにはこの本がおすすめです。 

はじめての 弦楽器メンテナンスブック(Amazon)

”はじめての”とついているとおり初心者向けのものですが、

よい演奏のためには演奏以外のことも重要ですから、こういう知識が結構役にたちます。

あとがき

このブログではもっぱら鑑賞に関することを書いていて、演奏や楽器のことはほとんど書いていないのですが、まあたまにはこういう内容もよいでしょう。

意外に鑑賞に関係のないようなことを知ると音楽が面白くなったりします。

弦のことなどは楽器をやっていないとほとんど知るべくもないですが、ヴァイオリンをやっていない人でも、眺めるだけで結構面白いものだと思います。本当は実物をみるともっと面白いのですが・・・

弦の思い出

ヴァイオリンの弦はみてもらうと判るとおり高いものだから、高校生のときなんかは張りかえるだけで一大事だった。

毎回一万円近いセットを買うなんてとてもできなかったから、よく先生の”お古”をもらっていた。

 

先生は使い終わった弦をまた袋にもどして、保管していた。

いくつかもらうとそれぞれに、その弦を張った日にちと、外した日にちが書いてある。

僕はこれはわかりやすくていいやと単純に思ったけれど、今考えるとそういうところにプロフェッショナルがでている。

それだけヴァイオリン弾きにとっては重要なことなんだろう。

音はもちろんだけれど、それを本業にやっている人にとってはどれをどういうサイクルでということがスケジュール的にもそれからまあ資金的にも大切なことらしい。

 

大学にはいってアルバイトをし始めてからは結構いろいろな弦を試した。

初めはどれを選べばよいかよくわからなかったが、

これは僕の癖というか、生き方というか、とにかくわからないことは判る人に初めから聞くことにしているので、弦楽器屋のフロントの前で職人さんに大いに相談した。

僕の行き着けの楽器屋の職人さんは非常に親切で事細かに教えてくれる。

 

職人さんは当たり前かもしれないが、それが好きでやっている人のようで、弦のことだけでなく、ほとんどきいていないようなことまで、本当に、親切に教えてくれる。

ひとつきいたばかりに一時間以上楽器の構造について話されたときはちょっと疲れてしまった。

ただ職人さんの話は楽器をやっている身からすれば非常に面白いし後からためになる。

材木の種類と枯渇などはもはや楽器の問題の範疇を超えてくる。

 

ヴァイオリンは本当に繊細で壊れやすくて、音もすぐ狂うし、トラブル続きなのだが、知れば知るほど愛着が沸くもので、先生も職人さんもヴァイオリンが好きでやっていると思うとなにか心温かに感じるものがある。