きつねの音楽話

老人性古本症候群を患った若者の徘徊ブログ

これは本当にいい歌・・・シューベルトの「楽に寄す」をドイツ語で味わう

どうも、最近ちょっとシューベルトに注目しています。

まあなんとなくリートを聴いているだけなんですが。

 

これまでこのブログでは、2回シューベルトを紹介しました。

 

◆野ばら

fuchssama.hatenablog.com

◆魔王

fuchssama.hatenablog.com

 

僕はシューベルトのことはそこまで知らないのですが、最近聴いていてこれ本当にいい歌だなあと思うものがあったので紹介します。(有名どころですが)

シューベルトの「楽に寄す」を聴く

初めて聴いたとき、何か他のことをしながら、この曲を流しききしていたのですが、歌の力があまりにすごいんで作業をやめて聴き入ってしまったのを覚えています。

知らない方もいると思うので、とりあえず聴いてみてください。

An die Musik(楽に寄す、音楽に寄せて)

1817年3月に作曲。

歌詞を書いたショーバーはシューベルトの親友で、生活に困窮して作曲のための時間をつくることも難しいシューベルトに同情して、住まいの提供や経済援助をしました。

シューベルトは彼の12の詩に曲をつけています。

 

二節の有節形式

原曲はニ長調で女声のためのもののようです。

Mäßig 程良い(中庸の)はやさで

 

歌はシュワルツコップ

僕が初めてきいたのも彼女のCDでした。


Elisabeth Schwarzkopf sings "An die Musik" by Schubert

 

男声用の編曲

フィッシャー=ディースカウ


An die Musik - Schubert - Dietrich Fischer-Dieskau

うーん、うまいですね・・・

 

歌詞

Gedicht von Fr. v. Schober

 

1,

Du holde Kunst,
ドゥー ホルデ クンスト

in wieviel grauen Stunden,
イン ヴィーフィール グラオエン シュトゥンデン

wo mich des Lebens wilder Kreis umstrickt,
ヴォー ミッヒ デス レーベンス ヴィルデル クライス ウムシュトリックト

hast du mein Herz zu warmer Lieb' entzunden,
ハスト ドゥー マイン ヘルツ ツー ヴァルメル リープ エントツンデン

hast mich in eine bess're Welt entrückt,
ハスト ミッヒ イン アイネ ベスレ ヴェルト エントリュックト

(in eine bess're Welt entrückt.)

 

2,

Oft hat ein Seufzer,
オフト ハット アイン ゾイフツェル

deiner Harf entflossen,
ダイネル ハルフ エントフロッセン

ein süsser heiliger Accord von dir,
アイン ズューセル ハイリゲル アコード フォン ディール

den Himmel bess'rer Zeiten mir erschlossen;
デン ヒンメル ベスレル ツァイテン ミール エルシュロッセン

du holde Kunst, ich danke dir dafür,
ドゥー ホルデ クンスト イッヒ ダンケ ディール ダフュール

(du holde Kunst, ich danke dir.)

 

※()は歌中の繰返し

※ 発音は目安です。

日本語訳と解説

詩の意味を知ると歌がよりよくわかります。

まず、文のなかを見て、後に訳をのせます(僕の拙い訳ですが)

 

1,

Du holde Kunst,

呼びかけですね。

duは英語のthou

holdeはdearにあたりましょうか

meine Holde! で我が恋人よ、の意になりますから、

Kunst=芸術に親しみを込めて呼びかけているわけです。

 

汝、愛する芸術よ、位の意味

in wieviel grauen Stunden,

inは英語のinと同じです。

ここではStunden=時間が後におかれていますから、~の時間の中(うち)で、となります。

wievielは wie=how, viel=much でどれほど(多く)のという意味

grauenは語尾を抜くとgrauで英語のgray(灰色の)

灰色の時間というとよくわかりませんが、朦朧とした、曇った、暗いという印象を与えます。

どうしてそういう時間なのかは次の一文でわかります。

wievielもどれほどのといって誰かに尋ねているのではなく、すでに何かあることを想定していっているわけです。

 

如何ほどぞもやとくもりたる時のうち

wo mich des Lebens wilder Kreis umstrickt,

woはStundenにかかってその時間の内容を表します。本来woは英語でいうwhereですが、こういう使いかたがあります。

mich 私を

des Lebens 人生の

wilderは原型wildヴィルトで英語のwildワイルドと同じ。ここではあらあらしいとか厳しいとかそういう意味。

Kreisは環(わ)のことで、人生の環などというと、まさに詩的な表現ですが、僕はどことなく輪廻転生とか仏教的な感じがします。 怨憎會苦ですね笑

umstricktはumstrickenで、strickenは編むとか絡めるという意味。

umがついてここではがんじがらめにからめ捕られて、翻弄されるというような意味。

 

人生の荒々しい環が吾を惑はすところ(の時間)

hast du mein Herz zu warmer Lieb' entzunden,

hastは英語のhast(have)で現在完了をつくる助動詞です。ここでduがああ、なにかしたんだなあ、と思われます。

mein Herz わたしの心を

entzundenはこれがちょっとわからないのですが、僕からすると、uに点々がついてüしかも語尾が変わってentzündetになりそうな感じがしますが、ここでは古い形か方言か、こういういい方になっています。意味は火をともすでしょう。

zu warmer Lieb'は直訳するとあたたかな愛へ

Lieb'はLiebeリーベでeの省略は詩では、音を整えるためによく行われます。

 

(そういう時のうち)汝は吾心に温かな愛の灯をともし

hast mich in eine bess're Welt entrückt,

entrücktはあるものをあるものから他へ移すという意味で、その向かう先が

in eine bess're Welt、より善い世界というわけ。bess'reはbessere

 

(そういう時間から)吾をよりよき世界へ遠ざけてくれたる

 

2,

Oft hat ein Seufzer, 

 oftは英語のoften

hatはhas

Seufzerはため息

 

幾度も、ひとつの溜息が

deiner Harf entflossen,

 Harfはハープ、竪琴

entflossenは不定形entfließenで、あるものから流れでる

 

汝の竪琴から流れいづる(溜息)

entflossenはハープの音(の出方)をよく表しているように思います。

ein süsser heiliger Accord von dir,

 süsserはsüßで甘い

heiligerは聖なる

Accordは普通Akkordと書きます。和音

von dir汝の von は英語のof

 

ひとつの甘く清き汝の和絃が

これは上の二行と同格ですね。

den Himmel bess'rer Zeiten mir erschlossen;

 den Himmel 天を

bess'rer Zeiten よりよき時

den Himmel besserer Zeitenでよりよき時の天というのですが、はてこれはどういう意味か

mir 私に

erschlossenは不定形erschließenで(閉じていたものを)開くという意味

つまりよりよき時の天はそれまで閉じられていたというわけです。

 

吾によりよき時の天を開きけり 

du holde Kunst, ich danke dir dafür,

 ich わたし

danke danken感謝する だんけしぇーんのだんけ

dir 汝に

dafür そのために というのはよりよき時の天を開いてくれたことに対してです。

 

愛しき芸術、有難う

訳まとめ

一応日本語訳をまとめておきます。

 

一、

汝、愛する芸術よ

如何ほどぞ、もやとくもりたる時のうち

人生の荒々しい環が吾を惑はすところ

汝は吾心に温かな愛の灯をともし

吾をよりよき世界へ遠ざけてくれたる

 

ニ、

幾度も、ひとつの溜息が

汝の竪琴から流れいづる

ひとつの甘く清き汝の和絃が

吾によりよき時の天を開きけり 

愛しき芸術、有難う

 

日本語として意味を通すなら、少し順を入れ替える必要がありますね。

二番の三行目、”ひとつ”の前に”たつた”といれるとよいかもしれません。

詩をよんでの感想やらなにやら

そうですね、詩は結構簡潔な内容で、素直に芸術に対して感謝するものです。

besserが何度かでてきて、

芸術によって、人生が”よりよい”ものになるというところが強調されています。

人の世は住みにくいと思う人は読んでみるとよいかもしれない(漱石の「草枕」を読む)』で紹介した「草枕」にでてくる非人情とは随分違った見方をしたもので、小説内にも西洋芸術について触れるところがありますが、この曲はまさに典型的な西洋芸術といわれると思います。

つまり芸術は(浮世のつらい有様を克服しながら)人生をよりよいものにするというわけです。

草枕の立場というのはちょっと常人離れしたところがありますから、一般的には、というか現代日本人的にはこういう芸術のほうが実際役にたつのかもしれません。

野ばらなどもゲーテの詩がちょっと詩情に溢れすぎているので、こういう点からみると実際的でないところがありましょう笑

楽譜をのぞく

歌の技法について僕はよく知りませんが、ちょっと音楽の中身をみてみましょう。

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注:この楽譜は装飾等で実際の曲と違うところがあります。

曲は全体を通してピアノ右手のまとまった和音中心にできています。

左手はおまけというか、実は歌とたわむれています。

黄で示した部分が歌と同じ動きをしているのがわかります。

 

 

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ここは一番の盛り上がりのところですが、バスの黄をつけた部分等は借用和音といって、他の調から和音を借りるものですが、強い緊張があります。それが実際演奏される曲にもでていますね。

そして、歌の黄をつけた部分は倚音になっていて、これが一番強い緊張を生み出しています。(左側は倚音ではないが、そんなような使い方)

倚音については↓の記事で書きました。

【動画・解説付】美しい旋律は”知る”ことでもっと美しくなる!ベートーベンのロマンスを聴く 

 

まあでも和声は全体として単純で複雑ではありません。

終りに

最後にもう一度別の歌手できいてみましょう。

歌はフェリーア


Kathleen Ferrier sings "An die Musik"

この歌はあまり溌剌と歌うものでもないでしょうから、このくらいしっとり、むしろ祈るように歌うほうがあっているのかもしれません。

 

録音の事情もありましょうが、シュワルツコップは上の動画より、CDのほうが落ち着いて歌っています。(試聴してみるとわかります)

僕は動画の演奏よりCDのほうがいいような気がします。

 


シューベルト:歌曲集(Amazon)

 

 

ちょっと長くなりましたが、よくシューベルトを味わえたと思います。

またそのうち紹介できたらいいなあと考えています。

では今回はこのへんで。