きつねの音楽話

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【天才】青年モーツァルトの協奏曲を聴く(古典派協奏曲の様式について)

古典派協奏曲(クラシックコンチェルト)の様式は、古典派の作品はもちろんロマン派の協奏曲にも引き継がれています。

つまり人気の協奏曲はおよそこの様式をとっているわけで、演奏会等で耳にすることも多いのですが、少し複雑な形をもっていますからこれを頭に入れることでより協奏曲を楽しもうというのがこの記事の目的です。

 

この記事では

  1. 古典派協奏曲の様式
  2. モーツァルト青年期の協奏曲

の二つを書きます。

 

 

モーツァルトの協奏曲と古典派協奏曲の様式

1, 古典派協奏曲の様式

古典派の協奏曲はバロックの協奏曲と、クラシック独特のソナタ形式が結びついたものです。

バロック協奏曲とソナタ形式がわからないと話がわからないと思われますから、以下二つの記事を読まれていない方は先に読むことをおすすめします。

 

◆バロック協奏曲について

fuchssama.hatenablog.com

 ◆ソナタ形式について

fuchssama.hatenablog.com 

1-1,古典派協奏曲の成立ち

古典派協奏曲は内部の構造をみると、ピアノソナタ等ソナタ形式をとっているものの類型にみえますが、歴史的系譜の上ではバロック協奏曲の直系にあたります。

このために古典派協奏曲は他のソナタ形式をとる曲と異なる特徴があり、バロック協奏曲とも普通のソナタ形式とも違う独自の様式を持っています。

1-2 古典派協奏曲の特徴

以下はその古典派協奏曲の特徴を順にみていきます。

1-2-1, 協奏様式

独奏楽器[群]と管弦楽の協奏という形態をとるのが協奏曲(コンチェルト concerto 伊)ですが、クラシックコンチェルトはバロックコンチェルトからその”協奏様式”を受継いでいます。

 

しかし、特に第一楽章に、バロック協奏曲の特徴であるリトルネロ形式ではなくて、ソナタ形式を採用しているため、

バロック協奏曲みられるような、

 合奏→リトルネロ楽想

 独奏→副楽想

という形はみられません。

1-2-2, 予備提示部つきソナタ形式

古典派協奏曲のソナタ形式は普通のソナタ形式と違い、冒頭に合奏の予備提示部”をもっています。

 

つまり下図のようになります。

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背景赤の部分が、普通のソナタ形式にはない予備提示部です。

そして図をみるとわかるように、予備提示部では普通、主調のままで主要主題類が要約提示されます

※予備提示部があるため、提示部の反復(リピート)は行われません。

 

提示部以降は一般のソナタ形式と同じですが、各テーマを独奏と合奏とが交互に受け持つことによって、協奏の効果を十分に発揮されるようになっています。(下図) 

 

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※カデンツァ(cadenza 伊):古典派協奏曲では楽曲の終りにおかれ、和音(というよりは曲)の解決を際立たせるために挿入する技巧的で即興的な楽句。カデンツァはもともと主題、動機によって即興演奏するならわしでしたが、次第に名人芸を披露する場になり作品と連関がなくなっていったため、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第五番「皇帝」以降は作曲家自身がカデンツァを楽譜に書きこむようになりました。

 

この形式を”協奏風ソナタ形式”と呼ぶこともあります。

1-2-3, 三楽章型

古典派協奏曲はほとんどが三楽章でなりたっていますが、これは交響曲等の四楽章型から一楽章を除去したのではなく、バロック協奏曲から直接受継いだものです。

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 つまり上に載せたバロック協奏曲の記事のこの図の形が引き継がれたわけです。

ただし上に書いてきた通り、楽式の部分がリトルネロ形式からソナタ形式になります。

※第三楽章はロンド形式が採用されることが多いです。

2, モーツァルト青年期の協奏曲

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1777年に描かれたモーツァルトの肖像画

 

モーツァルトは多くの協奏曲を、まだ子供のうちから晩年まで書き続けて、残しました。

今回は、古典派協奏曲の形を確かめるために、モーツァルト青年期の協奏曲をいくつかみてみます。

2-1, 1774年から1779年までに作られた協奏曲

 1774年(18才)

  K.191 ファゴット協奏曲 変ロ長調

 1775年(19才)

  K.207 ヴァイオリン協奏曲第1番 変ロ長調

  K.211 ヴァイオリン協奏曲第2番 ニ長調

  K.216 ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調

  K.218 ヴァイオリン協奏曲第4番 ニ長調

  K.219 ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調

 1776年(20才)

  K.238 クラヴィーア協奏曲第6番 変ロ長調

  K.242 3台のクラヴィーアのための協奏曲第4番 ヘ長調「ロードゥローン」

  K.246 クラヴィーア協奏曲第8番 ハ長調「リュッツォウ」

 1777年(21才)

  K.271 クラヴィーア協奏曲第9番 変ホ長調「ジュノム」

  (271 i ヴァイオリン協奏曲第7番 ニ長調 ※偽作の疑)

 1778年(22才)

  K.313 フルート協奏曲第1番 ト長調

  K.314 フルート協奏曲第2番 ニ長調(オーボエ協奏曲 ハ長調)

  K.299 フルートとハープのための協奏曲 ハ長調

 1779年(23才)

  K.365 2台のピアノのための協奏曲第10番 変ホ長調

  K.364 ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調

 

これらが1774年から1779年の間にかかれた主な協奏曲です。

1778年の一連のフルート作品は優雅なもので、特にフルートとハープのための協奏曲は”ロココ音楽”の神髄といわれています。(この前後にフルート四重奏曲も作られています。)

 

※ロココ音楽(英 rococo music):1720-70年頃の美術史用語からきた言葉で、貝殻細工を意味するフランス語。バロック音楽の装飾的な作風と、前古典派の多感様式、ギャラント様式の両方を含む。バロックや古典派に比べて、軽快、精緻で洗練されているが、非構成的で浅薄なものが多い。

 

1779年の協奏交響曲(sinfonia concertante 伊)というのは、バロック時代のコンチェルト・グロッソと密接な連関があるもので、複数の独奏楽器をもちます。しかし、形式的には古典派協奏曲と同じく、協奏風ソナタ形式を一楽章にもつものです。

他の独奏楽器を複数持つ協奏曲も、形としてはこれに準ずるものでしょう。

 

今回は古典派協奏曲の様式を確かめるのに、1777年までの協奏曲から、ファゴット協奏曲ヴァイオリン協奏曲第3番、クラヴィーア協奏曲第9番「ジュノム」の第一楽章をそれぞれ分析します。

2-2, K.191 ファゴット協奏曲 変ロ長調

この曲は1774年に作られたものですが、同じ年に作られたものに、K.190 コンチェルトーネ ハ長調があります。

このコンチェルトーネ(concertone 伊 大協奏曲の意)は、ヴァイオリン二挺とオーケストラのための曲で、他にオーボエとチェロの独奏部を含みます。

この曲は娯楽的なもので、対話(dialogue 英)や反復進行を多くもつ、J.C.バッハ(J.S.バッハの末子、モーツァルトの師)のシンフォニア・コンチェルタンテに近い曲です。

第三楽章のフィナーレにメヌエット-ロンドを持ちますが、これはクリスチャン・バッハが好んだものです。

 

一方ファゴット協奏曲は、そういう伝統的な形式に則るのではなく、低音と高音の音質の差やスタッカート、説得力のある音色など、この楽器特有の価値を発揮するように作られていて、モーツァルトの素晴らしい手腕がみられます。

 


Klaus Thunemann - Sir Neville Marriner - Mozart - basson concerto

ファゴット トゥーネマン

 

2-2-1, 予備提示部

・主題a I調

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冒頭の主要主題 ヴァイオリンとホルン

上に書いたように予備提示部は主調で要約提示されるので、どこまでが第一主題(部)でどこからが第二主題(部)なのかがわかりにくいです。

以下めぼしいものにとりあえず番号をつけて、後で分析します。

 

あとにヴァイオリンが尻尾をつけて主題bへ

・主題b I調(終りⅤ調の感じ)

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aは力強くのびやかですが、bは16分音符で軽く活発なもの。

伴奏が八分音符で分散和音を弾いているのにも注目されます。

 

・主題c I調

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オーボエとホルンに導かれてヴァイオリンがひそやかな感じの主題を歌う。

オーボエとホルンがⅤを保続(のば)している。

 

・主題d I調

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速い分散和音

 

※主題というほどの重要性はないかもしれませんが、説明を簡潔にするためここではとりあえず主題とします。

・主題e I調

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最後に弦楽器が速い音階を二回続けて閉める。

※これも普通の意味での主題とはいえないが、やや重要な要素。

 

以上みたところによると、どうやらa,b,cが主要なもののようです。

あとに続くファゴットのソロをみてみます。

2-2-2, 提示部(ソロ)

・ソロ1 Ⅰ調

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主題aがI調で提示されます。

主題のあと華やかな走句が入ります。

 

・ソロ2 Ⅴ調

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弦楽器が主題eで区切りをつけたあと、ファゴットソロが新たな主題をヘ長調で歌います。

16分音符の速い分散和音で、技巧のみせどころですね。

拍はずれていますが、主題dから作られたといえるかもしれません。

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その後の部分、急に低い音がはさまって、また急激に高い音に上がります。

それからやや変形した主題bがきます。

これらの部分などは上に書いた”ファゴット特有の価値”を持っているでしょう。

 

・ソロ3 Ⅴ調

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ヘ長調のまま主題cが現れますが、主題cを弾いているのはヴァイオリンで、ファゴットは新しいメロディを歌っています。

ここでも上下に激しく動く場所があります。

 

この後トリルで盛り上げて、トゥッティになります。

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トゥッティは主題bと主題dがくっついていますね。

そのまま展開部に入ります。

2-2-3, 再現部

・主題a+ソロ1 Ⅰ調

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トゥッティが主題aを再現したあとすぐにソロも主題aを提示します。

 

・ソロ2 Ⅳ調

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ここは変ホ長調で提示されています。

曲の終りにはよくⅣ調が現れます。

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ここは提示部とあまり変わりませんが、絶妙に(Ⅳ調の中の)Ⅰ調になっているようです。

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主題bのあと提示部にはなかったモチーフが現れます。

主題eからとったとも考えられそうですが、まあただの音階なのでいくらでもこじつけようはあります。

 

・ソロ3Ⅰ調

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今度はソロが主題cを歌っています。ヴァイオリンは提示部でファゴットが歌っていたメロディを弾いています。

 

この後カデンツァがあって、曲が終わります。

2-2-4, 構成まとめ

以上みてきたことをまとめると、提示部で、

主題a(Ⅰ調)→主題b部(Ⅴ調)→主題c(Ⅴ調)

と提示されたものが、再現部で、

主題a(Ⅰ調)→主題b部(Ⅳ調)→主題c(Ⅰ調)

と再現されていることがわかります。

 

主題bと主題cのどちらが第二主題かというと、どちらかといえば、Ⅰ調で再現される主題cのほうかと思われますが、どうでしょう。

 

ややはっきりしないところがありますが、このようになりそうです。

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予備提示部は提示部の構成を適用すればもっと明確にあらわせましょう。

つまり、主題aとbは第一主題部に、主題c以降が第二主題部に属するとみられます。

もちろん主題d、eを主とした楽想はソロに現れず、a,b,cにくらべると重要度は低いでしょうから、その”位”は配慮する必要があります。

2-3, K.216 ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調

 1775年の主要作品は器楽のためのもので、その最後にくるのが五曲のヴァイオリン協奏曲です。

この五曲の他にケッヒェル番号のついた曲でもう二つヴァイオリン協奏曲があります。

つまりK268(第6番)とK271(第7番)ですが、モーツァルト的な形式はもつものの出自が不確かで、さらに魅力に欠けるところがあります。

というわけで、この二曲は現在偽作で、第五番までがモーツァルトのヴァイオリン協奏曲のすべてだとされています。

 

第1番と第2番の初めの二曲は、ヴィルトゥオーソ(virtuoso 伊 名人、技巧)的なヴァイオリンの書法と主題の処理がうまくつり合いを持たず、特に2番の第一楽章は後期バロックか、タルティーニ等の初期ロココのようなつくりになっています。

それに比べると、第3番以降はその辺を上手くこなしたようで、特に高い評価を受けています。

 

ヴァイオリン協奏曲の第三番第一楽章は自身のオペラ「牧人の王 Il ré pastore」のアリアのリトルネロからとられた主題で始まります。


Mozart violin concerto nº 3 - Yehudi Menuhin, violin

ヴァイオリン メニューイン

 

 2-3-1, 予備提示部

・主題a Ⅰ調

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冒頭堂々たるテーマ

一拍目と二拍目がそれぞれ打たれる特徴的な形をしています。この形は曲の各所にみられます。

こういうリズムだとシンコペーションになりそう、つまり二拍目が強く演奏されそうですが、そうはなっていません。

この時期のモーツァルトの主題にはこの形が多いように思われます。

例えば上のファゴット協奏曲の冒頭、ヴァイオリン協奏曲第一番、フルート協奏曲第二番(オーボエ協奏曲)等

 

◆ファゴット協奏曲

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◆ヴァイオリン協奏曲第一番

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◆フルート協奏曲第二番

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これなんか主題aにそっくりですね

 

・主題b Ⅰ調

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これはファゴット協奏曲の主題eのような役割をするもので、ソロには出てきませんが、大きな役割をもったものです。

躍動感のある活きのいい主題

あとにセカンドヴァイオリン、ビオラ、そしてチェロまでが一緒に動く速い音符があります。チェロがここまで動くとちょっと異様な感じがします。

 

・主題c Ⅰ調(Ⅴ上)

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ヴァイオリンの装飾つきの軽い二音に導かれて、オーボエとホルンが新たな主題を提示します。

主題自体は簡潔なものですが、ここは伴奏による味付けの強い部分ですね。

 

・主題d

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オーボエとホルンによる主題c(左上の黄色)が終わったあとヴァイオリンがすぐさま別のメロディをはさみます。

これもまたソロにはでないものです。

 

・主題e Ⅰ調

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主題d(左の黄)がおわって、すぐまたべつの主題がはいります。

装飾のついた軽やかなメロディですが、ここもまたセカンドヴァイオリンの伴奏がよいところですね。

 

オーボエがのびやかに歌ったあとソロが入ります。

2-3-2, 提示部(ソロ)

・ソロ1 Ⅰ調

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主題a

頭の和音は絶大な効果があって、これによってこの曲の性格が決まるようなところがあります。

ヴァイオリン協奏曲第一番も似たようなものですが、そちらは単音ではいります。

単音のほうが音色をつくりやすく優美にはなりますが、やはり効果としてはこちらのほうが大きいでしょう。

 

主題のあとトゥッティが予備提示部にない形で尻尾をつけます。

これを一応主題fとしておきます。

・ソロ2 Ⅰ調

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予備提示部にない形

確かにト長調ですが、みるとニ長調(Ⅴ調)が顔を出しています。

 

・ソロ3 Ⅴ調

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主題cの前にでてきた伴奏が発展しています。

ソロヴァイオリン自体も対照的な二つのメロディが対話をつくっていますし、伴奏もソロにこたえています。

 

・ソロ4 Ⅴ調

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主題cがまずオーボエで歌われて、それからソロヴァイオリンが重ねます。

このヴァイオリンは低音で、オーボエとは異なって、力強く朗々と弾きます。

 

・ソロ5 Ⅴ調

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主題eがオーケストラ(ヴァイオリン)にでてきます。

この主題はオーケストラにでてくるときはひそやかな感じですが、遅れてソロヴァイオリンが弾くときは極めて煌びやかで、続けて提示部の終りの盛り上がりをつくります。

 

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トゥッティは主題b+主題d+主題f

その後展開部に入ります。

2-3-3, 再現部

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再現部に入る前ソロヴァイオリンにフェルマータがついていますが、これはアインガング(Eingang 独 入口の意)といって、独奏者はここに即興(もしくは即興風)の短い楽句を入れます。

 

・ソロ1 Ⅰ調

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提示部と同じ

 

・ソロ2 (Ⅰ調)

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入りは提示部と同じで、後が変わります。

調は定まりませんが、Ⅰ調(ト長調)に向かいます。

 

・ソロ3 Ⅰ調

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提示部とやや形が変わります。

モーツァルトはこういうとき、そのままでも調が変わっていて一応の変化はありますが、同じことを繰り返さずに絶妙な変化をつけることが多いです。

 

・ソロ4 Ⅰ調

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提示部と同じ形をⅠ調に移調したもの

 

・ソロ5 Ⅰ調

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これも移調しただけですが、後半やや形が変わります。

 

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続くトゥッティですが、主題bの後の部分がでてきて、カデンツァに入ります。

カデンツァがおわったあとを主題bが引き継ぎます。

ここも主題b+主題d+主題fの形です。

2-3-4, 構成まとめ

予備提示部でより重要な主題はa,c,eで、さらにソロ2、ソロ3で重要な要素が追加されます。

僕のみたところでは、主題aは十分な長さをもって、はっきり主題だとわかるものですが、主題cや主題eの現れ方はなにか半端なところがあって、予備提示部にはなかったソロ3がそれらとおなじくらい重要な役割を果たしています。

 

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まとめると上図のようになりますが、こうみると典型的なソナタ形式ではないものの、整った形式を持っていることがわかります。

2-4, K.271 クラヴィーア(ピアノ)協奏曲第9番 変ホ長調「ジュノム」

この曲は1777年の始めに、ザルツブルクに訪れたフランスのクラヴィーアの達人ジュノム(Mille Jeunehomme)に刺激されて書かれたもので、それまでのものと比べるとはるかに大きな規模の協奏曲になりました。

モーツァルト生来の活発さや生命力、優雅さはさておき、

主題の連関や、徐々に高まる緊張とそれを力強く解決するためのフレーズの長さ、カデンツの扱いなどはモーツァルトの全作品のうちでももっとも巧妙でうまく構成されたものです。

またなんといってもソリストとオーケストラの関係が豊かですばらしいものです。

 


Clara Haskil "Piano Concerto No 9" Mozart

ピアノ ハスキル

 

2-4-1, 予備提示部

・主題a Ⅰ調

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曲頭ファンファーレのようなオーケストラのメロディにピアノがいきなり答えます。

これは上にみた二曲と比べてもわかるように、慣例的なやりかたではありません。

 

このオーケストラとピアノの対話は別にこの曲の形式の根本に関わるようなものではありませんが、トゥッティとソロの新しい柔軟な関係をつくったわけです。

 

・主題b Ⅰ調

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主題aのあとヴァイオリンが優雅なメロディを歌います。

 

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そのあと低音が歌う活発な部分が続きます。Ⅴ(シ♭)の感じが強いですが、予備提示部ですからⅠに戻ります。

この形は展開部にも現れます。

 

・主題c Ⅰ調

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ヴァイオリンの優雅な音に誘われて新たな主題が出てきます。

この現れ方だと重要な主題だということがなんとなくわかります。

 

・主題d Ⅰ調

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主題cのあとやや憂いを帯びた美しいメロディが続きます。

 

・主題e Ⅰ調

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主題dのあとちょっとおどけたようなモチーフがでてきて、突然ff(フォルティシモ)の長い音符で全てのパートが休みます。

 

・主題f Ⅰ調

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これはファゴット協奏曲の主題eやヴァイオリン協奏曲の主題fと同じようなものでしょう。

あとにヴァイオリンが軽いメロディを弾きはじめて、ソロが入ります。

2-4-2, 提示部(ソロ)

・ソロ1Ⅰ調(V主体)

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全く新しい形で入ります。

 

・ソロ2(+トゥッティ) Ⅰ調

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主題a

あとに左手の速い伴奏にのせて、主題aをモチーフとした楽想が続く。

 

・ソロ3 Ⅴ調

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主題cがⅤ調で登場

左手の三連譜が面白いですね。

 

・ソロ4 Ⅴ調

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予備提示部と同じように主題dが続きます。

繰り返されますが、二度目はピアノが伴奏にまわり、オーボエとヴァイオリンが歌います。

 

・トゥッティ Ⅴ調

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ピアノが一通り弾いたあとトゥッティになりますが、主題eがきます。

ここは

主題e→主題f→ソロ(主題b)→主題aという順で展開部に入ります。

ちょっと普通じゃないようです。

2-4-3, 再現部

・ソロ1(+トゥッティ) Ⅰ調

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ピアノが主題aを再現、オーケストラが答えます。

次はオーケストラがファンファーレでピアノが答えますが、提示部と違ってクロマティック(半音階的)な局面に入ります。

 

・ソロ2 Ⅰ調

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主題cをⅠ調で再現

 

・ソロ3 Ⅰ調

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主題dもⅠ調で続きます。

 

・ソロ4(+トゥッティ) Ⅰ調

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ピアノが終止をつくりますが、こんどは主題bをトゥッティが歌います。

続いてピアノも主題を模倣します。

 

・トゥッティ

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またピアノが終止をつくったあと今度は主題e

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あとに主題aが続いてカデンツァ

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カデンツァが終わったあとは主題fが続いて普通ならそこで終わりそうですが、提示部と同じように、ピアノがトリルで入ってきて、華やかに曲をしめます。

2-4-4, 構成まとめ

複雑な構造をしていますが、まとめるとこのようになるでしょう。

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ソロとオーケストラが呼応する主題aの形や、最後カデンツァが終わってからもソロが音楽に関わることなど、独特の形式を生み出していることがわかります。

参考文献&CD

 

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Violin Concerto No. 3 in G, K. 216: I. Allegro

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 五番の三楽章

Violin Concerto No. 5 in A, K. 219: III. Rondeau (Tempo di minuetto)

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あとがき

実際に曲の中身を見てみると、記事の初めで確認した構造よりもやや複雑な形を持っていることがわかります

これらの曲はモーツァルト青年期の曲であって、これからベートーヴェンの出現に向けて発展していくことになるわけです。

数年間のうちにつくられたものではありますが、ファゴット協奏曲やヴァイオリン協奏曲より、「ジュノム」のほうが第二主題の独立性とでもいうべきものが高くなっています。

 

今回は協奏曲の様式をみるというので、一番重要な第一楽章のみをみましたが、他の楽章ももちろん魅力的なものばかりです。

特にヴァイオリン協奏曲第3番の第二楽章は特別なものです。

 

少し難しいところがあったかもしれませんが、まあたまにはこんな風にちょっとつっこんで聴いてみるとより面白くなるんじゃないでしょうか。

モーツァルトにはまだまだたくさんの協奏曲があります。

モーツァルトと趣味

僕が聴いた初めてのモーツァルトはヴァイオリン協奏曲の第三番と第五番だった。

そのころハイドンの交響曲などを聴いて少しクラシックになじみはじめていた僕はその天賦の才が世界のあらゆるところで響き渡る大モーツァルトの音楽も面白いに違いないと思い、CDを用意したのだった。

 

ヴァイオリン協奏曲第3番は、色にすると空色かなにかの、さわやかな曲だ。当時はそんな印象をもっていた。

ところがそういう印象を持つだけで、なにが面白いのか、どこに感動するのか、さっぱりわからなかった。

 

しかし僕は根気強かった。

例の如くわからない音楽をわからないまま何度も聴いた。

僕は「今わからなくても、そのうちきっと面白くなる」と信じていたのである。

 

やっぱり今度もそうで何故面白くなるのかはわからないが、とにかく面白くなりだしたら面白かった。

モーツァルトは天才だといつも思った。

それからモーツァルトの他の曲、例えばピアノソナタやヴァイオリンソナタ等、たくさんの曲を聴いたがどれも面白いものだった。

 

僕は今でもたまにモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を始めて聴いた頃のことを思い出す。

面白くないものが面白くなることは、わからないことがわかるようになることなのである。

一番信頼をおけるはずの自分の判断が、意外にも、信頼できないものだということがわかった。

古典は人智で、人の趣味は向上する。

僕はモーツァルトからこのことを学んだ。

面白くなりだしたころより、今のほうがより面白く、モーツァルトはより天才で、そしてこれから先も音楽はさらに面白くなり、モーツァルトはもっと天才になるのである。