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きつねの音楽話

老人性古本症候群を患った若者の徘徊ブログ

【動画付・コーヒーカンタータ】コーヒー依存症の娘と父親の真剣勝負!果たして勝つのは?

コーヒー・カンタータを鑑賞する

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こんにちは、きつねです。

前回の記事で僕がコーヒー・カンタータを訳す羽目になった話を書きました。

僕はいままでコーヒー・カンタータをちゃんと聴いたことがなかったのですけれど、歌詞をみて聴いてみると、これがおもしろかった・・・

 

まずコーヒー・カンタータの内容を見てみます。

 

バッハ作曲 コーヒーカンタータ 「静かに、お喋りをやめよ」

"Schweigt stille, plaudert nicht"

Kaffee-Kantate

Dichtung von Picander

 

歌詞はライプツィヒの詩人ピカンダーによるものですが、最後のほう娘がこっそり話す部分は原詩にはないようです。

登場人物

このカンタータには登場人物が三人います。

  1、語部(Erzähler)

erzählenは物語るという動詞でErzählerはその名詞形で語るものという意味。

まずこの語部が出てきてコーヒー・ハウスでおしゃべりしている人たちに向かって、「静かに、お喋りをやめよ Schweigt stille, plaudert nicht」と始めるわけです。

  2、リースヒェン(Lieschen)

これが問題のコーヒー依存症の娘

コーヒーへの愛が凄まじい

  3、シュレンドリアン(Schlendrian)

リースヒェンの父親

娘のコーヒー飲みをやめさせようと奮闘する。

曲の構成              

  1. レチタティーヴォ(Recitativ 独)  語部
  2. アリア(Arie 独)         父
  3. レチタティーヴォ       父、娘
  4. アリア            娘
  5. レチタティーヴォ       父、娘
  6. アリア            父
  7. レチタティーヴォ       父、娘
  8. アリア            娘
  9. レチタティーヴォ       語部
  10. コーラス(Chor 独)       語部、父、娘

各曲名の右は歌い手

 

 

並べてみると整った構成を持っていますね。

 

レチタティーヴォは歌と朗読の間のようなもので、話の内容を語ってきかせるような曲です。

父と娘 のレチタティーヴォでは二人が会話します。

 

アリアはレチタティーヴォとは違って、感情の吐露されるような、気持ちのこもった歌です。よく抒情的な曲と説明されます。

 

最後のコーラス(合唱)は三人が一緒に歌います。

 

 

曲の内容を全部説明しているととても長くなるので、抜粋します。

第一曲 レチタティーヴォ (語部)


J. S. BACH - Coffee Cantata (BWV 211) - Nikolaus Harnoncourt 1

演奏は最近亡くなったアーノンクール

この演奏は演技が入っていて面白いですね。

演奏は28秒位から

 

Schweigt stille, plaudert nicht

und höret, was jetund geschie't

Da kömmt Herr Schlendrian

mit seiner Tochter, Lieschen her;

er brummt ja wie ein Zeidelbär;

hört selber, was sie ihn gethan!

 

靜かに、お喋りをやめよ

いまおこることをきけよ

そこ、シュレンドリアン氏が

娘のリースヒェンをつれてこちらへ來る、

彼は熊の如きぞ不機嫌なる

きけよ、娘の父にしたることを。

 

譯 きつね

 

 

まあこんな具合に始まるわけです。

Zeidelbärは実物がどういうものかわかりませんが、zeidelnは”蜜蜂の巣をとる”という意味なので、蜂蜜が好きな熊なのでしょう。 brummt(brummen)は虫のぶんぶん飛ぶ音(ドローン)からきて不平をいうとかそんな動詞。

西洋の詩は行の語尾の音を揃えるのでそこにも注目すると面白いです。

この部分では1行目と2行目が”t”で、4行目と5行目が”r”で、3行目と6行目が”n”で韻を踏んでいます。

 

第二曲

父のアリアで、毎日娘に話していることがなんの効果も持っていない、娘は話を受け流してしまう、と嘆く。

第三曲 

父と娘の言い争い コーヒーをとりあげるという父に対して、

日に三度のコーヒーを許してもらえなければ、苦しみに干からびたヤギの焼き肉のようになってしまうと娘は答える。

第四曲 アリア (リースヒェン)

演奏は上の動画4:26位から

 

Ei! wie scmeckt der Coffee  süße,

Lieblicher als tausend Küsse,

Milder als Muskantenwein.

Coffee, Coffee muß ich haben,

Und wenn jemand mich will laben,

Ach, so schenkt mir Coffee ein!

 

ああ。なんて珈琲は甘いの、

千の接吻よりそそり、

葡萄酒よりやはらかい。

珈琲、珈琲を飲まなきや、

それから、私を喜ばせるのなら、

ああ、それなら珈琲を送つて頂戴。

 

譯 きつね

 

 

これは抜群に面白い曲ですね

リースヒェンの切実な想いが伝わってきます笑

バッハのカンタータの大部分を占める教会カンタータというのは宗教曲で大真面目なのですが、この曲も曲付けだけみれば全く素晴らしい物で、ただ歌詞を聴くと、コーヒーが飲みたいといっている。

音楽は素晴らしいが、内容がふざけている。

 

この曲で目立っている横笛はトラヴェルソといって、バロック時代に使われた木製のフルートです。金属製のものに比べて音が丸く、やわらかいのが特徴。

歌詞は繰り返されたりして書いてある通りには進みません。

Munskantenweinはweinがワインですが、Muskantenはちょっと判断がつきません。

普通に考えればマスカットかと思われますが、マスカットはMuskateller(wein)で、

Muskateというと”にくづく”(ナツメグ)のことです。ナツメグを香辛料に入れたワインというものがあるのかどうか、その辺わかりません。

第五曲

また父と娘の言い争い

 

コーヒーをやめなければ、結婚パーティーにも、散歩にさえいってはいけないという父に、

ああ、わかったわ ただコーヒーだけは許してもらいます、などという娘。

とんでもない猿娘をもってしまったと嘆く父はそれなら、流行のドレスも買わない、窓によって外を見てはいけない、ボンネットの金銀飾もやらない、と畳みかけますが、

娘はそれでも平気だという。

第六曲 アリア (シュレンドリアン)


J. S. BACH - Coffee Cantata (BWV 211) - Nikolaus Harnoncourt 2

始めは第5曲

第6曲は1:13から

 

Mädchen, die von harten Sinnen,

Sind nicht leichte zu gewinnen.

Doch trifft man den rechten Ort,

O! so kömmt man glücklich fort.

 

氣難しきをなごを、

易くは負かされじ。

然し正鵠を射らるれば、

やや、ことはうまく運ばうぞ。

 

 譯 きつね

 

 

これは娘に限るのではなく、”女の子は”といういいかたです。

父の苦労が見えます。

第七曲

父の言うことをきけといわれるリースヒェン

みんな、ききましょう、コーヒー以外ならね。

 などという。

 

父は最終手段にでる。

よし、それならいいだろう

お前には婿をとらん。

 

これにはさすがのリースヒェンもこたえたようで、

ああ、お父さん、お婿さんを!

と遂に降参。

もうコーヒーはやめるというリースヒェン

 

それなら婿を貰える、と父。

第八曲


J. S. BACH - Coffee Cantata (BWV 211) - Nikolaus Harnoncourt 3

全部聴きたい人のために一応貼っておきます。

 

婿を貰えると大喜びのリースヒェン

うまくいけば今日ベッドに入る前にいいお婿さんが貰えるかもしれない!

 第九曲

早速婿を探しにでたシュレンドリアン。(そういう風習のようですね)

しかしリースヒェンといえば、こっそりこんなことを言っている。

お婿さんなんてきやしないわ

私が飲みたい時にはいつでもコーヒーを入れてよいということを約束して、誓約書に書いてくれなきゃ

 

リースヒェンのコーヒー愛は本物ですね・・・笑

第十曲 コーラス (三重唱)


J. S. BACH - Coffee Cantata (BWV 211) - Nikolaus Harnoncourt 4

第十曲は0:52から 途中やや映像の乱れあり

 

Die Katze läßt das Mausen nicht,

Die Jungfern bleiben Coffeeschwestern.

Die Mutter liebt den Coffeebrauch,

Die Großmama trank solchen auch,

Wer will nun auf die Töchter lästern!

 

猫は鼠をやめられず、

をとめは珈琲の妹(いも)のままなり。

母は日々の珈琲を好き、

おうなもまた飲む。

誰か娘を責めらるる。

 

譯 きつね

 

 

これも”~というものは”といういい方。

バッハにしては珍しい感じのする曲。

 感想やらなにやら

いや、本当に面白い。

上にも書きましたが、カンタータというのは大抵大真面目なので、なんというかそういうものがなんとなく脳裡に浮かんだような状態で聴かれるのですが、歌詞がふざけている。

歌いは大まじめだが、言っていることはコーヒーをかけた熾烈の争い。

 

面白かったので、歌詞の訳を押し付けられたこともよしとしましょう。

ただ、記事を書きながら訳して書きだしたので、残りを訳して明後日までに清書しなければ・・・

 

 

この訳の成果はまた今度報告することにします。

何かしらの報酬はあるのか、それともタダ働きになるのか・・・笑

実はそのおばさまの展覧会が近々あるのですが、その会場でコーヒー・カンタータを流したいそう。

そしてそこでバイオリンを弾けなどといわれている僕でした。

 

 

  アーノンクールのコーヒーカンタータは今中古でしか手に入らないようです。
そのうちにまた発売されるかと思いますが。
今出ているものでは、アメリングが歌ったこの盤の評価が高いようです。
僕はホグウッド指揮の盤も参考にしましたが、そちらも今は廃盤です。
アーノンクールのコーヒーカンタータは以下のDVDにも収録されています。

 

 

続き

fuchssama.hatenablog.com