大人でも身につく。音楽をより楽しむための”音感”の鍛え方。
音感というといつでも“音名を当てる”というところに焦点が当てられるが、僕は音感の重要性はそれだけではないと考えている。
今回は音感が音楽を鑑賞する上でどう関わるかということと、僕がいままで実際にやってきて効果があった音感を養うための訓練を書く。
鑑賞用音感の身につけ方について
音感は音楽鑑賞にどのように影響しうるか
音感というと「絶対音感」と「相対音感」ということがしばしば問題になるが、僕は個人的にそれを分けて考えたことはないし、むしろ相互に補う合うものだと思っている。
そもそも絶対音感と相対音感などという区分がどこかから発生したからそういう風に認識しているだけで、どこからがこういう音感でどこからがこういう音感だなどということは判断しえないことのように思う。
一般にいって
絶対音感は音の絶対的な高さをそれ単体で判断するもので、
相対音感はある基準音から相対的に音を関係づけるというものである。
よくよく考えれば音感などという漠然とした感覚能力がこの文章で表されるもののみで考えられるというのは明らかにおかしい。(これは言語的の罠である)
絶対音感や相対音感という区分で表されるところの音感は、確かに楽器演奏においては重要な役割を果たすように思う。
例えば、ヴァイオリンを弾いている時、鳴った音と楽譜に書いてある音が一致しているか確認しうるのはそういう音感によるものであろう。
(ただ僕の場合楽譜に書いてある音が実際に弾く前から頭の中で鳴っていたりするが、ああいうものは絶対音感や相対音感のどちらでもないものである。)
このブログでは楽器演奏ではなく、音楽鑑賞に焦点をあてているので以下主に音楽鑑賞における音感について思うところを書く。
音感の意義
クラシック音楽は、ここでは機能和声の働く音楽のことをさすが、
音と音の関わり、または音の塊の機能が重要な音楽である。
つまり聴者は旋律、また和音という存在について敏感でなければならない。
音楽鑑賞における音感において重要なのは、個々の音をいい当てることではなく、これらの音の機能について敏感であることであろう。
例えば、7の和音には諸種あるが、
属七、長七、短七の和音
これらの和音を聴いたときに聴き分けられないとしたら実際の音楽でこれらの和音のもつ力を聴きとれているといえるだろうか。
音楽を聴くことは全く主観的なことであるから、当人が聴けているつもりになれば聴けていることになる。(その主義でいけば、犬も美しい旋律に感動しカラスもまた和声の見事さに耳を傾けていることになるが)
僕は属七の和音を聴くと主和音に解決する大きな力を感じるし、個々の音の進む方向も見える。(だからこそそれ以外の動きをした時にある種の驚きがある)
音感を鍛えることは音に対して敏感になり、これらの関係について明晰な感受性をもつことであるから、音楽鑑賞においてもまた重要なことであろう。
しかし、音感というのはおそらく多くの人が普段は意識しないことであろうし、敏感になろうといっても、どうすればよいというノウハウは調べても手に入らない。
以下では僕が今までにやってきて音感養成のために役に立ったと思われることを書きだしていく。
音感の鍛え方
楽典的のこと
音楽鑑賞では音楽の中身を知るということによって”聴く”ことに大きな影響がでることは繰り返し強調したいところである。
つまり楽典的知識を得ることによって鑑賞の態度が変わってくる。正確にいえば知識をえてそれを実際に鑑賞にあたって活かすいわば哲学的の操作が必要ではあるが・・・
絶対音感等ふつういうところの音感の鍛え方についてはあとにまわすとしてまずそもそも和声音楽において音感、和声感と言い換えてもよいが、それがどういう要素において働くのかということについて書く。
なによりもまずこれを知ることで音感を養う第一歩になる。
二音の関係
音楽は音がいくらか連なってできるもので、先にも書いたが音と音の関係が重要である。
まず音と音の関係にはどのようなものがあるかみる。
名称は別に覚えなくてもよいのでざっとみてもらいたい。
色がついた部分は二音が同時に鳴っている。(もちろんバスも鳴っているから実際になるのは三音)
こういう二音の関係を”同時関係”にあるといい、またこれらの二音は和声的音程をなす。
今度は横に向かって色がついているが、ある音が鳴った後に別の音が鳴るときその二音は”継時関係”にあるといい、旋律的音程をなす。
また継時関係にはいくつかの種類がある。
ソプラノの色のついた部分は”シ”から”ド”に上がっている。こういう進行を上行という。
またアルトの色のついた部分は下に向かっている。これを下行という。
旋律的音程は三種に分けられる。
ソプラノのように一つだけ音が上下するとき、それを順次進行という。(専門的にいえば二度の進行である)
アルトのように音がとぶとき、それを跳躍進行という。(三度以上)
テノールのように音の高さが変わらないとき、それを保留という。
同時関係と継時関係を一緒に考えるとき、同時進行というが、4つの組み合わせがある。
このように両方とも上行する(か、下行する)とき、これを並行という。
一方が上行、一方が下行するとき、これを反行という。
一方が進行し、一方が保留されるとき、これを斜行という。
両方保留されるとき、これを同時保留という。
以上の諸関係が組み合わされて、旋律ができて、和声をなし、曲になる。
和声については書きだすとかなり複雑になってしまうから今回は特に旋律について注目すべきところを書く。
・ポイント1 旋律の進行の仕方に注目する。
ある旋律が順次進行でできていれば、旋律感が強く、跳躍進行でできていれば、和声感が強くなる。
これは前回扱ったベートーベンのロマンスであるが、全体的に順次進行が多く、強烈な個性をもった旋律が感じられる。
【動画・解説付】美しい旋律は”知る”ことでもっと美しくなる!ベートーベンのロマンスを聴く - きつねの音楽話
これはバッハの平均律一巻の第一番のプレリュードの冒頭である。
このように跳躍進行が多様されると、これは極端な例だが、旋律の”まとまり”というべきものが薄れて、和声的に、線ではなく色の要素が強くなる。
・ポイント2 旋律の動きに注目する。
音楽において音の動きは重力と大きく関係している。
上に行く方が多くのエネルギーを要し、高い音というのはそれだけである種の音楽的価値をもっている。しかし、高い音は不安定であるから曲は低いところに落ち着いていく。
まずは曲の上下運動に注目したい。
例えば先の旋律であれば、ソから始まり終りころミで頂点に達するが、このシからミに上がるには相当の(音楽的)エネルギーを要す。そして旋律はまた下がっていき、始めと同じようにソにいきつく。
楽曲全体をみたときにも、こういう要素によって曲がなりたっていることがわかる。
ポイント3 同時進行に注目する。
並行と反行は音楽的に対概念であるが、実際聴いたときも与える印象は真逆である。
並行は一緒に連れ添っているが、反行は離反している感じがする。
和声的にいうと、基本的に反行のほうが優れているが、まあこれは鑑賞にはあまり関係がないかもしれない。
これはバッハの無伴奏バイオリンパルティータの第一番のサラバンドだが、大胆な反行がみられる。(並行も目立つ所は色をつけた。)
該当箇所は0:48位から
Arthur Grumiaux - Bach Partita No.1 in B minor, BWV 1002 (V. Sarabande)
以上に書いたように旋律の動き、力、関係について注意すると音楽がより面白くなる。
知識を得て、注意しながら聴くということが、音感を養うことになる。(和声についても同じである。)
より実際的な音感の鍛え方
これまで書いたことはかなり抽象的世界の話であったが、次に一般にいう音感を鍛える方法を書く。
僕が音感の訓練(聴音)を始めたのは二十歳ころであったが、結果としておそらく一般に絶対音感といわれるものを身につけることができている。
大人になってからでも絶対音感は身につくか
よく絶対音感は子供の時にしか身に付かないといわれるが、僕は大人になってから訓練し始めたのにも関わらず、絶対音感をはかることとしてあげられる「ピアノの音あて」ができるようになった。
僕も訓練しはじめたときは、(訓練というほどのものでもないが、)本当にできるようになるか半信半疑だったが、先生曰く、
いままでに聴音の訓練をやってできるようにならなかった人はいないから、年齢は関係ないと思う、
とのことであった。
そして実際僕は聴音ができるようになっている。
もちろん子供の頃から専門教育を受けた人に比べると能力の強度や精度は落ちるであろうが、身に付かないということもないと思われる。
もしかすると大人は根気が足りないのかもしれない。
以下参考に僕のした訓練を書く。
聴音
聴音には”旋律聴音”と“和声聴音”があって、
旋律聴音は単旋律をきいて、和声聴音は四声体(四つ音が重なったものの進行)をきいて音をあて記譜していく。
以下は僕の実際に使っていた教材
◇リズム練習とソルフェージュ(1) リズムを叩きながら歌おう(Amazon)
◇リズム練習274問 (初歩から受験まで段階的に使える聴音問題集)(Amazon)
旋律聴音はリズム練習の教材から適宜選んで行っていた。
音感には関係ないかも知れないが、リズム練習もやっていた。
聴音はピアノででたらめに鳴らして音をあてるよりは、和声的な旋律を聴いて音をさぐり記譜したほうがいいように思う。(理由は記事の初めに書いたとおり)
誰かに旋律を弾いてもらうかそれに準ずる手段を考える必要がある。
今はスマートフォン等のアプリでも音感を鍛える類のものが無料であるから利用してもいいかもしれない。
以下 よさそうなものを三つ選んでみた。
記譜と歌い
僕は和声を割と本格的に習っていたから、といた問題を相当量記譜してきた。
大量に記譜するうちに僕の音感に変化が生じた。
問題が複雑になってくると、理論だけでなく実際に聴いた感じが大事になってくる。
複雑になる問題
問題をといて、解答をピアノで弾いて、旋律の動きや和声を確認するということを繰り返しているうちに、
楽譜に書いてある音が頭の中で鳴り、声に出して歌えるようになった。
こうなるともはやなんの手がかりもなく頭の中で特定の音を響かせることができる。
まとめ
音感を養う上で重要なのは、まず記譜法や音組織などの知識であるから、楽典的知識は最低限おさえたい。
ざっと知識をみにつけるのであれば古典的なものだが以下がやはりよいと思う。
そして知識を得た上で、普段から音楽の細部に気を配ることである。
楽譜が読めるようになれば、楽譜を見ながら聴くのが一番である。
パブリック・ドメインのものはIMSLPで殆どすべて無料で手にはいる。
作曲家や時代によって形式等にもちろん違いがある。
それらを踏まえて、旋律や和声、曲のつくりに細かく注意するともっと音楽が面白くなるだろう。