モーツァルトのヴァイオリンソナタの楽譜はどの出版社のものがよい?
この記事は見ていただけたでしょうか。
ヴァイオリンを入院させたら一ヶ月近くかかってようやく退院したというわけですが、その時一緒にモーツァルトのヴァイオリンソナタの楽譜を見たことを書きました。
ヴァイオリンソナタというと、ヴァイオリン協奏曲とならんでヴァイオリン奏者にとって重要な曲種ですが、もう何年もヴァイオリンを弾いているのにソナタをちゃんと弾いたことがありません。
”ちゃんと”というと何がちゃんとなのかということになりますが、練習用に曲を集めた教則本で断片的にいくつかやったことがあるだけということで、弾いてきたのはほとんどが協奏曲か協奏曲風のものです。
ヴァイオリンの場合テクニックの上達をまず目標にするので、”基本的に”テクニックが問題にならないソナタはあとまわしにされるようです。
ヴァイオリンソナタが弾きたい
ヴァイオリンソナタというとなんといってもモーツァルトと、そしてベートーヴェンのものです。
そういえばこの記事で主なものは紹介しました。
僕は最近モーツァルトのソナタをよく聴いています。というかモーツァルトのヴァイオリンソナタ”だけ”聴いています。
これは2010年に発売された新しいもののようですが、僕のもっているのは古いもの。(演奏は同じ)
ただこのシェリングとヘブラーの録音は今売られていないようです。
Apple Musicではダウンロードできます。
試聴するとすぐにその美しさがわかると思います。
シェリングのヴァイオリンは音の表情が非常に豊かで、また立派なものです。
日本のヴァイオリン教則本(篠崎等)にはよく”立派に”弾くという言葉がでてきますが、シェリングのような音を目指せばよいのでしょう。
僕は演奏を聴いていると、ここはこんな風に弾いているだろうなとか、こんな風に弾くといいんじゃないかとか、あれこれ考えますが、この演奏を聴いていてヴァイオリンソナタ弾きたい欲がますます強まってきました。
モーツァルトのヴァイオリンソナタ
モーツァルトは多作家なのは周知の通りですが、ヴァイオリンソナタもまた40番などという番号がついているものもありますから、たくさんつくったようです。
ただし、モーツァルトのヴァイオリンソナタは過渡期にあるためか、普通演奏される曲はそれほど多くありません。
当初はヴァイオリンの序奏付ピアノソナタだったのが、徐々にヴァイオリンとピアノが対等になっていくというのは音楽史上の出来事で知っておいてよいことです。
ベーレンライター版
ヘンレ版
あと何故かAmazonには売っていませんが、ペータース版などです。
楽器をやらないかたは知らないかもしれませんが、楽譜も出版社が色々とあって選ぶだけで苦労します。
僕はピアノでよくウィーン原典版というのをつかっているので、ヴァイオリンでもそれを求めようかと思ったのですが、店員さん(職人)いわくヴァイオリンではあまりつかわれないと。
よく買われるのはベーレンライターとペータースらしいです。
ヘンレ版はベートーヴェンなんかはよく買われるらしく、確かに僕もロマンスの楽譜をヘンレ版でもっています。
ベーレンライターとペータースを比べると値段はあまり変らないのですが、ベーレンライターは若い頃の作品も収録していて、曲数でいうとベーレンライターのほうがたくさん載っていました。
どちらがよいか悩んだのですが、店員さんに相談すると、ペータースのほうは演奏者に対する配慮が多いとのことで、フレーズがページのかわりで切れないようになっているとか、あと音符自体がみやすいとか。
正直にいって音符の形にそこまで注目していたことはなかったのですが、比べてみると確かに違う。
ベーレンライターのものももちろんみやすいのですが、楽譜によっては小さかったり行間が狭かったりで見づらいものなどあります。
というわけで今回は店員さんの助言に従ってペータース版を買いました。
これは僕の買った楽譜ですが、上に書いた通り工夫がみられます。
This page folds out
Cette page se déplie
Ausfaltbare Seite
と英仏独で書かれています。
日本語に直すと「このページは開きます」位のものですが、その通りページが折りたたまれています。
これでフレーズがとぎれない、いち楽章が一望できるようになっています。
ここまで手の込んだ楽譜は初めてみました。
今までは自分でコピーして見やすいようにしていたものですが。
楽譜とことば
海外の出版社の楽譜を翻訳したものもありますが、楽譜というものは欧米向につくられたものをそのまま輸入することが多いので、そのようなものは上にみたように英仏独、そしてたまに露語なんかで解説が書いてあります。
僕の買ったペータース版も英仏独で解説が書かれています。
前書きの始めを少し英仏独で読んでみましたが、そうですね、ドイツ語はやっぱりわかりにくい笑
僕のフランス語力は永遠の入門中にあって、読めるものじゃないのですが、英語を読んだあとだとまあ似たようなものでよくわかります。
それがドイツ語になるとうーんわかりにくい。
本当は英語とドイツ語のほうが近い関係にあるはずなのですが、不思議なことです。
ところで
This page folds out
Cette page se déplie
Ausfaltbare Seite
という短い言葉だけみても英仏独の違いがみられるようで面白いです。
フランス語が一番素直だと思うのですが、
déplier (たたんだものを)広げる という他動詞が代名動詞(自動詞)になって se déplier 広がる、広げられる
読みは セット パージ ス デプリェ のようになります。
英語もフランス語と同じといえば同じなのですが、
意味からいえば This page can fold out となりそうなものですが、この通り。
もしくは This page folds "in" と、僕としてはなっていてほしいのですが、折りたたまれていることよりは広げられるということに視点が向いているようです。まあそれは他のも同じですね。
ディス ペイジ フォールヅ アウト
ドイツ語は、これが面白いのですが、英仏が「このページは広げられます」ときちんと書いているのに対し、ぶっきらぼうな感じがします。
ausfaltenというのが、se déplierやfold outに相当するのですが、それをausfaltbar 広げられるという可能の意を含んだ形容詞にしています。
それをSeite=pageにかぶせて「広げられるページ」というわけです。
アオスファルトバーレ ザイテ
日本語に直すとこんなものでしょうか。
英:このページは広がります。
仏:このページは広げられます。
独:広げられるページ
”日本語に直すと”こう見えるのですが、実際は同じことを書いているんですから面白いですね。
こういう変なところに目を向ける必要はありませんが、やはり洋楽をやる人は多少の語学力があるほうがよいでしょうね。楽譜の解説が読めますから。
楽譜の解説に何が書いてあるかというと、それは色々と書いてあるのですが、楽譜というのは”根拠”が重要なものですから、原典についてと、それから導かれる演奏、演奏法については読むとためになります。
ためになるというか、それを研究しないと弾けないといえるかもしれません。
編集者によっても違うのですが、例えば僕が買ったペータース版は指番号や弓使いがひとつも書かれていません。
ある程度修行していれば、おおよその部分は自ずからわかるのですが、例えばKV301のある箇所にはこういう注意書きがあります。
Concerning the slurring, see the Critical Commentary
Au sujet des liaisons, voir Commentaire critique
Zu den Bindebögen, siehe Kritischer Kommentar
スラーについて、註を参照せよ
というわけですが、これが読めずに飛ばしてしまうとちょっと問題があるかもしれません。
ヴァイオリンソナタの演奏
ペータース版は全三巻で、僕が買ったのは第一巻K.301-306までの6曲が収録されています。
モーツァルトのヴァイオリンソナタは技術的には難しくないので、とりあえずざっと弾いてみようと思っています。
早めに二巻三巻も手に入れたいです。
ヴァイオリンソナタはもちろんピアノパートもあり、楽譜もついているので、ピアノでも弾き散らかしています。
役割を分担しているので、ピアノソナタよりはやっぱり簡単でしょうか。
自分が一人しかいないので、合奏できないのが残念です笑
ある程度弾いたらまた特定のソナタについて記事にするかもしれません。
今回の記事は演奏しない人にはとっつきにくい内容だったかもしれませんが、まあ楽譜を選んだり、読んだりするのにも面白いことや難しいことがあるというのがわかるとこれまた面白いかなあと思ったので書いてみました。