シューベルトの「野ばら」をドイツ語で味わう
野ばらはゲーテ(J.W.v.Goethe)の詩で、シューベルトやヴェルナー他可なり多くの音楽家が曲をつけています。
今回はシューベルトの野ばらを原詩で味わいます。
- シューベルトの野ばらを聴く
- 野ばら(Heidenröslein)
- シューベルト作曲・野ばら
- 歌詞のドイツ語について
- 英語にない文字
- 語の意味と詩の構造
- Sah ein Knab' ein Röslein stehn.
- Röslein auf der Heiden,
- war so jung und morgenschön,
- lief er schnell, es nah zu sehn,
- sah's mit vielen Freuden,
- Röslein, Röslein, Röslein rot.
- Knabe sprach : „ Ich breche dich,
- Röslein auf der Heiden ! “
- Röslein sprach : „ Ich steche dich,
- “daß du ewig denkst an mich,
- und ich will's nicht leiden.
- Und der wilde Knabe brach
- 's Röslein auf der Heiden,
- Röslein wehrte sich und stach,
- half ihm doch kein Weh und Ach,
- mußt es eben leiden.
- シューベルト関連の記事
シューベルトの野ばらを聴く
野ばら(Heidenröslein)
ゲーテの1771年の作
1770年ゲーテは、ゼーゼンハイムという場所のフリードリケ・ブリオンという少女と交際していましたが、71年に入ると、次第に離れて行きました。
Knabeはゲーテ自身、Rösleinにはフリードリケを表しているといえそうです。
この詩には原詩に当たるものがありますが、ゲーテはそれを推敲してこの詩をつくりました。
日本では近藤朔風訳で有名ですが、多くの人が訳しています。
近藤朔風は明治の人で、獨逸語なんて云う物騒なものがいつ日本に入ってきたのか知りませんが、その訳の美しいこと、明治の人の偉さには驚くばかりです・・・
シューベルト作曲・野ばら
シューベルトは1815年8月19日にこの曲を作曲しました。「魔王」をつくったのと同じ、シューベルト18歳の年です。
「魔王」とこの「野ばら」は全く違った性格をもっていますね。
三節の有節形式
ト長調、4分の2拍子 愛らしく
Dietrich Fischer-Dieskau; "Heidenröslein"; Franz Schubert
歌 シュワルツコップ(シュヴァルツコプフ)(日本語表記が難しい名前) 訳すと黒頭
Elisabeth Schwarzkopf sings Schubert: "Heidenroeslein (Hedgerose)"
Heidenröslein ハイデンレースライン(歌詞)
Worte : Johann Wolfgang von Goethe
Sah ein Knab' ein Röslein stehn.
ザー アイン クナープ アイン レースライン シュテーン
Röslein auf der Heiden,
レースライン アオフ デル ハイデン
war so jung und morgenschön,
ヴァル ゾー ユング ウント モルゲンシェーン
lief er schnell, es nah zu sehn,
リーフ エル シュネル エス ナー ツー ゼーン
sah's mit vielen Freuden,
ザース ミット フィーレン フロイデン
Röslein, Röslein, Röslein rot.
レースライン レースライン レースライン ロート
Röslein auf der Heiden.
レースライン アオフ デル ハイデン
Knabe sprach : „ Ich breche dich,
クナーベ シュプラハ イッヒ ブレッヒェ ディッヒ
Röslein auf der Heiden ! “
レースライン アオフ デル ハイデン
Röslein sprach : „ Ich steche dich,
レースライン シュプラハ イッヒ シュテッヒェ ディッヒ
“daß du ewig denkst an mich,
ダス ドゥー エーヴィヒ デンクスト アン ミッヒ
und ich will's nicht leiden.
ウント イッヒ ヴィルス ニヒト ライデン
Röslein, Röslein, Röslein rot.
同上につき省略
Röslein auf der Heiden.
〃
Und der wilde Knabe brach
ウント デル ヴィルデ クナーベ ブラッハ
's Röslein auf der Heiden,
スレースライン アオフ デル ハイデン
Röslein wehrte sich und stach,
レールライン ヴェールテ ズィッヒ ウント シュターハ
half ihm doch kein Weh und Ach,
ハルフ イーム ドッホ カイン ヴェー ウント アッハ
mußt' es eben leiden.
ムスト エス エーベン ライデン
Röslein, Röslein, Röslein rot.
同上につき省略
Röslein auf der Heiden.
〃
※カタカナは”近い音”というだけで実際細かいところは異なります。一応単語ごとにスペースを入れてあります。
野なかの薔薇
譯 近藤朔風
童は見たり野なかの薔薇
清らに咲けるその色愛でつ
飽かずながむ紅にほふ
野なかの薔薇
手折りて往かん野なかの薔薇
手折らば手折れ思出ぐさに
君を刺さん紅にほふ
野なかの薔薇
童は折りぬ野なかの薔薇
折られてあはれ清らの色香
永久にあせぬ紅にほふ
野なかの薔薇
歌詞のドイツ語について
英語にない文字
öは分解するとoeで、oオーでもeエーでもない音です。
ゲーテの名前中のoeもこの音で日本語では仕方ないのでエーと云う音で表しています。
oの口の形で、舌を前に出し、エーという感じ。
ßは分解するとssで発音はス(もちろん正確にいえばu音は入りません。)
語の意味と詩の構造
以下詩について簡単にですが解説します。
Sah ein Knab' ein Röslein stehn.
sahはsehen見るの過去形
einは不定冠詞、英語のa (ドイツ語は語の性によって冠詞や形容詞の語尾が変わります。)
Knab'=Knabe わらべ 音の関係でe省略 eがついているとクナーベという発音になりますが、どうしてeを省略するかは実際に詩の中でいい比べるとわかります。
Röslein Roseが薔薇で、それに縮小語尾leinがついたもの ちいさいものやかわいいものにつける。日本語で言うと薔薇ちゃんという感じ
stehn=stehen立つ e省略
この一文を散文的に書きなおすと、
Ein Knabe sah ein Röslein stehen. わらべは薔薇が立っている(生えている)のを見た。
になりますが、韻文(詩)ではこういう風に倒置や省略が多く使われます。
Röslein auf der Heiden,
auf der Heiden 野中の
aufは最も基本的な意味としては~の上に(へ)となりますが、ここでは場所を表します。
derは定冠詞、英語のthe
Heidenは野ですが、日本語の草の鬱蒼と茂った野原とは違いましょう。
war so jung und morgenschön,
warはseinある、存在する の過去形 英語のwas
so 英語のsoと同じ 正し発音はゾー 相当、とてもの意
jung 若い 英語のyoung
und 英語のand
morgenschön morgenは朝 schönは美しい beautiful as the morning 朝の如く美しいの意
lief er schnell, es nah zu sehn,
lief laufen走るの過去形
er 英語のhe
schnell 急いで
es それを 野ばらのこと
nah 近くで
zu 英語のto
sehn=sehen 見る
es nah zu sehen で”それを近くでみるために”の意
sah's mit vielen Freuden,
sah's=sah es
mit と共に 英語のwith
vielen Freudenに合わせてviel多いがこう活用する
Freuden Freude喜びの複数形
mit vielen Freudenで大喜びで位の意
Röslein, Röslein, Röslein rot.
rot 赤い 英語のred ドイツ語は形容詞を形容する名詞の前に置くので、普通の文章でははrot Rösleinとなります。この形は詩だけに起こる例外です。
Knabe sprach : „ Ich breche dich,
sprach sprechen話すの過去形 英語のspoke „“で囲まれた部分は会話になります。
ich 英語のI
breche brechen壊す 主語がichの時はこの形になります。英語のbreak
dich 君を
Röslein auf der Heiden ! “
野中の薔薇よ (呼びかけ)
Röslein sprach : „ Ich steche dich,
steche stechen刺す
“daß du ewig denkst an mich,
daß 英語の関係代名詞thatに当たりますがここではやや特殊な用法で~であるようにの意
du 君、あんた
ewig 永遠に、ずっと
denkst denkenおもう duが主語の時この形になる an ~ denkenで~をおもう
mich わたしを
und ich will's nicht leiden.
will's=will es willは英語のwill ここでは意思を表す esは折られること
nicht 英語のnot
leiden 苦しむ
Und der wilde Knabe brach
wilde wildがKnabeに合わせて活用したもの 英語のwild 乱暴な
brach brechenの過去形
's Röslein auf der Heiden,
's=es それを上の一行とあわせて そしてその乱暴なわらべはそれを折った の意
Röslein wehrte sich und stach,
wehrte wehrenの過去形 sich wehrenで身を守る、抵抗する sichは説明が難しいですが、野ばら自身のこと
stach stechenの過去形
half ihm doch kein Weh und Ach,
half helfen助けるの過去形
ihm 彼に
doch 色々な用法がありますが、ここでは”しかし、でも”位の意
kein 否定冠詞 英語で言うと名詞の前につくno
Weh 痛み苦しみを表す間投詞
Ach ああ(嗚呼)
half ihm doch kein Weh und Achで苦しみ叫んだけれども彼に対して何の効果もなかったという意味になります。
mußt es eben leiden.
mußt'=mußte müssen~せねばならぬの過去形
eben ただただ
ただただ苦しみ忍ぶしかなかった、折られるより他なかったの意
シューベルト関連の記事
◆魔王